企画参加

□こんな時代に、こんな愛
1ページ/1ページ

 
 
 

むかしむかしあるところに、かわいらしいお姫さまがおりました。お姫さまとは申しましても、小さな国でしたので、民はみな暮らしに困っていたのでありました。
そこで、お姫さまの父上である殿様は、大きな国のお殿様のご子息に、お姫さまを嫁がせることにしました。そうすればその国から助けが来るので、民の暮らしも楽になるのです。
お姫さまは、それが嫌で嫌でたまりませんでした。なんせ、見ず知らずの方と夫婦にならなければいけないのですから。それでもお父上に逆らうわけにはゆきませぬ。けれどもやはり嫌だったお姫さまは、お城を抜け出すことにしました。
侍女のひとりと服を取り替え、お姫さまは城下へ参りました。前にも幾度かお忍びで参ったことがございましたので、迷うことはありませんでした。
少し歩くと、いつかに入ったことのある茶店がございました。お姫さまは少し疲れておりましたので、そこで休むことといたしました。
そうしてしばらく休んでおりますと、若い殿方から声をかけられました。

「もし」
「はい、何にございましょう」
「隣に座っても良ろしいでしょうか」
「ええ、どうぞ」

優しそうな面差しの方でした。
その方とは少し言葉を交わしただけにございましたが、殿方の優しさは、その短い間にもすぐに感じることができたのでございました。
殿方が茶店を発たれてからも、ずっとその方のことを考えておりました。



お姫さまはその後、すぐに見つかってしまいました。それから婚礼の日まで、お城に閉じ込められてしまったのでございます。それでもお姫さまは、ずっとあの方のことを想い続けました。
そして、婚礼の日はやって参りました。真っ白な花嫁衣装に身を包んだお姫さまは、相手の方を見てたいへん驚きました。
あの時の殿方だったのです。

「あなたは…」
「お久しぶり、ですね」

二人は顔を見合わせて笑うと、手を取り合ったのでした。





これで、今日の昔話は終わりにございます。…お姫さまと殿方はどうしているか、と?今も、幸せに暮らしております。え、証にございますか?仕様のない子ですね、今呼んで参ります。
秀一郎さまぁ、どこにいらっしゃいますかぁ。少し、こちらにいらして下さいな。
そう、私がそのお姫さまで、父上が殿方にございますよ。





 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ