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□僕が犯した3つの過ち
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最後に見た父の姿は、肉体から血が噴水のように飛び出している光景だった。

父を斬ったのは、他国から“羅刹女”と呼ばれる女武者。

―俺の、初恋のヒト



僕が犯した3つの過ち



縁側で女性が寝ている。
緩くウェーブがかかった長い黒髪。
日に当たった事が無いような白い肌。
寝返りをうったせいか、うなじが露になっている。
俺は周りに誰も居ないか確認し、腰に携えている愛刀を抜いた。
鈍く光る刀身。
迷う事無く、首筋に向かって振り下ろす。

「まだまだ甘いね」

女性は横に転がり難なくかわす。
斬る相手の居ない刀は床に突き刺さってしまった。

「チッ!」
「あーあ。床に穴空けちゃったじゃんか。真田に超怒られるんじゃない?」
ニヤニヤと笑うと、俺の脇腹に向かって足の裏が伸びた。

「くらえバカヤ!」
「ぐはっ!」

体がぶっ飛ぶ。ちきしょう、真田先輩の鉄拳より痛ぇ…。

「腕磨いて出直してきな!ハッハッハッハッ!」
高らかに笑うと、縁側から去って行く。
これで俺の暗殺は89回目の失敗を迎えた。

父さん、ごめん。またアイツを倒せなかった。
父さん、もっとごめん。俺、アイツのことが…


「赤也!まーた失敗したのか?」

くちゃくちゃ金平糖を食べながら丸井先輩がやって来た。
「ったく懲りねぇよな。ホント」
常に甘味を食べている丸井先輩から甘い匂いがする。
正直、あまり近くに寄らないで欲しい・・・

「次こそは必ず討つっす!」
「なぁ赤也、相手はあの“羅刹女”なんだぜぇ。無理じゃね?」

“羅刹女”―戦場で悪魔の如く敵を斬り倒す彼女に付けられた字。
その姿は敵だけでなく、味方も戦慄する程だ。
噂によるとかの“牛若丸”の血を引いているらしい。
さらに恐ろしい事に、立海内で彼女に勝てるのは幸村先輩だけ。
幸村先輩とともに立海三人衆と呼ばれる真田先輩と柳先輩ですら、“羅刹女”に敵わない。

「でも、いつか必ずアイツを…!」
「とか言っても、赤也は“羅刹女”が好きなんじゃろ?なぁブンちゃん」
音も無く俺の背後に現れるのは仁王先輩。
立海の忍集団を束ねる仁王先輩は神出鬼没だ。

「ななな何言ってんすか!?仁王先輩!!」
「焦りすぎじゃ赤也。プリッ」
「仁王の前で誤魔化しても無駄だぜぇ」
ニヤニヤ笑う先輩達。

「いい加減告っちまえよ」
「そうじゃそうじゃ。あの人はべっぴんさんじゃから、直ぐに取られてしまうのう」
いつからだったか、俺は恋のネタで先輩たちにイジられるようになっていた。

「こっ告白なんてあり得ないッス!」
「またまた〜意地はっちゃってよお」
「素直になりんしゃい」
相変わらず先輩達はニヤニヤ笑っている。
人の恋路を邪魔して楽しいのかチクショー!

「じゃ俺もう戻るんで」
空気に耐えられなくなり、俺は足早に自室へ向かった。


「は―。赤也も羅刹女も可哀想じゃ」
「は?なんのことだよ仁王」


一方その頃、幸村は柳の居室で茶を飲んでいた。

「もうあの日から2年か…」
精市は視線を湯飲みに落とした。
「月日とは、速いものだな」
「ふふっ。そうだね柳」
言葉は笑っているが、瞳には悲しみの色が浮かんでいる。
無論、俺もだ。

「やっぱり、俺がいけなかったのかな。赤也にちゃんと伝えなかったから…」
「過ぎた事を言っても何も変わらん。それに、あの時はあれが最善の策だった」
「分かってるよ柳。だけど、このままじゃあの二人が余りにも不憫だ…!」
珍しく精市が声を荒げたその時だった。

「だぁ―れとだれが不憫ですってぇ?」
スパーンと無作法に襖が開けられた。

「幸村様がネチネチ悩むなんてらしくないですヨ。」
「だけど!」
「い―んですい―んです。全てはこの“羅刹女”が請け負いますから」
そう言って精市の隣に座り茶菓子をつまむ。

「まったく。変わらないなお前は」
「さんぼ―に褒めてもらえるなんて超うれぴ―☆」
「棒読みで言われてもな」
思わずため息をつく。

「すまない。苦労をかける」
「苦労なんてこれっぽっちもしちゃいませんよ。それに、赤也にはもっともっと強くなってもらいたいんです。」
茶菓子を食べる手を止め、精市を真っ直ぐ見つめる。

「その為なら、私は恨まれ役ぐらいいくらでも買います」

戦場以外では見せない、射ぬくような瞳。
俺も精市もしばらく動けなくなった。

「じゃ、私はこれで失礼しますね。ごちそーさまでしたっ」
いつものように気の抜けた笑みを浮かべ部屋を後にした。

「なあ柳、」
「精市、お前の言いたいことは分かっている。だが赤也の父親の件は立海の最重要機密だ」
そう、誰にも知られてはならないのだ。2年前の真実は…。

「もう沈黙を破らないか?これ以上隠していてもどうしようも無い」
「しかし精市、」
「確かに真実を告げなければ、赤也は強くなっていくかもしれない。でも、辛い現実をきちんと受け入れなければ本当の強さは手に入れられないと俺は思う。」
精市の表情は本気だった。
本気で、立海の最重要機密の沈黙を破ろうとしている。

「赤也の父親が、立海に反逆しようとしていたという真実をね」

障子に人影が映った。
たまにワカメみたいだと揶揄される特徴的なシルエット。

「ゆっ…幸村センパイ!」

勢いよく障子が開かれる。

「どういうことっスか!?俺の親父が…」
「落ち着け赤也。」
「柳センパイ!」
一行に鎮まる様子は無い。

「精市…」
「柳、構わないよ」

俺は頷くと、赤也に話し始めた。

2年前の真実を…



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