企画参加

□君の舌が血刀を舐めるなら
1ページ/1ページ



白石蔵ノ介は善政を敷く国主として他国に広く知れ渡っている。
それゆえに他国から移住する者も少なくない。
民だけでなく家臣からの信頼も厚い。
下克上が当たり前の戦国時代において稀有な存在である。
まるで菩薩のような白石蔵ノ介を人はいつしか『聖書』と呼ぶようになっていた。

ただし、『聖書』と呼ばれるのは政治をしているときだけ。

民は戦っている時の彼の姿を知らない。
この事実を知っているのは、長年連れ添っている家臣と彼の妻のみであった・・・


「蔵ノ介さま、戦の用意が整いました」
上座に座る蔵ノ介に三つ指を突いて報告するのは彼の妻。
「そうか。ごくろうさん。」
妻に微笑む姿は『聖書』の名に相応しい。

「此度の敵は我が軍と五分五分の勢力でございます。苦戦が予想されるかと。」
「おもろそうやん」
そう言うと、傍らに置いてあった愛刀―美濃拵・孫六兼元を手に取った。

「コイツでたくさん斬れるかと思うと、」
素早く鞘を抜く。刀身が鈍く光った。
「興奮するわ!」

横に大きく振り下ろされ、障子がぶっ飛ぶ。
そこに居たのは黒装束をした人間、忍。
感情を殺すように育てられてきたとはいえ動揺を隠せない。

「なぜ我が居ると分かった!?」
忍の別名は影。気配など取られてはならないのに・・・

「残念やけど、俺も嫁さんもアンタがおることは分かっとったで」
「私たちは何度も死地を経験しております。気配を察するなど容易いこと」
「なにっ!?」
「それより、お前はどこの国の忍や。氷帝?立海?それとも台頭してきた不動峰か?」
「六角、山吹も怪しいですね」
夫婦の目が鋭くなる。

「誰が言うものか!」
「そら残念やわ。そんなら、アンタは・・・」
美濃拵・孫六兼元が上から一直線に振り下ろされる。

弾け飛ぶ真っ赤な血液。
響く断末魔。

「用ナシや」

美濃拵・孫六兼元に付いた血を舐める。
その姿に慈悲の一片も無い。
これが、『聖書』と呼ばれる彼の別の姿である。

「謙也を呼んでくれへん?コレの事任せるわ」
「承知いたしました。」
一礼し部屋を後にした。

残ったのは、口角が上がった白石蔵ノ介と忍の残骸。


「んんーっ、絶頂!」


響いた声は部屋に吸い込まれた。


“君の舌が血刀を舐めるなら”


(蔵ノ介さま。私はあなたの大望のためなら、血塗れの道でも喜んで歩きます)





............................
読んでくださりありがとうございます!
戦国時代もテニプリも大好きなので楽しく書かせていただきました^^
蔵ノ介の口癖を入れるか迷っていたのですが、入れてしまいました…!

ちなみに作中に出てくる『美濃拵・孫六兼元』は実在します。
柄や鞘の色が緑という理由だけで勝手に使わせていただきました。←

では、アデュー!

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ