企画参加
□震
1ページ/2ページ
テニスコートがよく見える廊下。
人気がなくなる放課後、そこの窓に肘をついて、テニス部が部活に励む声を聞きながら、お気に入りの本を読む。これが私の日課。
全国大会が終わって、3年生が引退して、もう跡部の指導する声が聞こえなくなって幾日か。
確かに今、私は空虚感というやつを味わっている。
「好きだったなー。」
「何をだ?」
……ええええぇェェ!!
私の独り言に、背後から間を置かずして返答してきた声は低くて、いつも遠くで聞いていたものだった。
急いで振り返る。
―――キ ン グ だ。
「あああああ跡部!?」
「ああ。というか吃りすぎだろ。」
「本物!?」
「あぁん?おかしな奴だな。俺様は俺様だろ。」
そう言ってククッと笑った跡部は、この時私がときめいたことなんて知らないんだろうな。
ほらほらほら!今も華麗に私の横へ移動してきた…!!
ズボンのポケットから手を出して、元々緩く締められていたネクタイを更に緩め、視線をこちらに流す姿に神々しさまで感じてしまう私は末期だろうか。
神々しいといえばあの時もそうだった。気を失ってもコートに立ち続ける背中を、私は遠くで見つめることしか出来なかったんだ。
どこか眩しくて、遠くて、景色が霞んで見えた。