Novel

□幸せな夕暮れ
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「もー、お兄ちゃんてば…」

音葉の呆れた視線の先には、両手に大きな紙袋を持った優の姿があった。

「どーせ全部義理なんだから、私たちもお裾分けしてもらおーよ」
けろっとした表情で彩音が音葉に言った。

そんな二人を前に、優はただ苦笑いするしかなかった。


2月も半ば、そんな時期に紙袋に「義理」ときたら、バレンタインしかない。


この時期の月森家は毎年大変なのだ。
父親も息子も、周囲が放っておかない魅力の持ち主。もらうチョコレートの量も半端ではない。

父親の方は、甘いものが苦手なのも手伝ってか、優が大きくなってからは義理だろうともらわないようにしている。
それでも、事務所に勝手に送られてくるチョコレートたちをわざわざ返品するわけにもいかず、結局優のような状態になるのだ。


「お兄ちゃんのチョコの量も年々増えてくよね〜。」
彩音が紅茶を煎れながら楽しそうに言う。

あとの二人はソファに座り、音葉がチョコレートを広げ始めながら言った。

「義理だろうと何だろうと、少しは断ればいーじゃない。」
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