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□サイレンス 二→槌
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大好き。なんて言ったら、アナタの世界は歪むのでしょうか。
「サイレンス」
クラス発表の貼り紙を見て、思わず顔が緩んだ。
「きゃー二見くん!クラス一緒だねー!」
横から嬉しそうにすりよってくる女の子は、まぁ俺の彼女というわけなのですが。
それはさておき。
「ほんとだ。やったねー」
適当な言葉を返しながら、もう一度視線をあの名前に戻そうとした。
槌谷 斉
去年この高校に入ったのが、随分最近に感じる。もう2年生。槌谷と出会って8年が経とうとしていた。
「やっほーい!二見隊長!Dぐみー!同じクラスでござるなー!」
「お、槌谷」
普段ひょろけてるけど、ちゃんと人の気持ちがわかって、失敗しない。
しかも自然体。
それであのほにゃっとした顔で笑う。
そんな槌谷と一緒にいるのは心地よくて。つまり、俺は槌谷が好きなんだろう。と思う。
いつから槌谷に対してそういう感情を持ったのか、もう思い出せないけれど。
緩んだ顔をお得意の作り顔に戻して振り向いた。
その日の帰り道、たまたま槌谷と一緒になった。
「それにしても二人でランデブーは久しぶりですなー」
そういえば昔はよくこの道を一緒に歩いた。
「槌谷。」
「んー?なんだね?二見隊長!」
槌谷が笑うと景色が柔らかくなる。
「俺…」どうしてこの肝心な時に俺の口は動かないんだろう。
女の子にはきのきいたひとつやふたつの言葉、すぐ吐けるのに。
寒くもないのに、手の震えが止ま
らない。
「俺、槌谷が「あーいたぁ!二見君!」
いいかけた言葉が黄色い声でかきけされた。
「もー!探したんだからねー?ひとりでさっさと帰っちゃってぇー!私待ってたんだよー?ていうか日曜日暇?私ねー美味しいケーキ屋さん見つけたんだーそれで」
「あ…」
イマ、オレ、ナニイオウトシタ??
男が男を好き。
だなんて、笑えない。
だから、これまで黙ってきたというのに。
気持ちを潰して。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。ケーキか。いいね。一緒にいこっか」
「本当?やったぁ!」
「槌谷、ゴメンね。先帰るね。」
そういって槌谷を追い越した。
「馨」
馨。なんて呼ばれるから驚いて振り向くと、槌谷は少し怒ったような、困ったような、そんな顔をしていた。
馨。そう呼ばれるのは、何年ぶりなんだろう。
「…バイバイ。また明日。」
今度こそ槌谷に背を向けて、ひらひらと手を降りながら歩き出した。
また明日。
そうやって続いてきたから。今までも、これからも。ずっと。
アナタの世界を歪めたくないから。
いいんだよ。このまま。
アナタの側にいれたら。
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