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□誕生日 大主
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ん?


通りがかった養生所からは、嗅いだこともない強い、甘いにおいが漂っている。



いつもはこんなにおいしないのに。


「センセイ…?」

少し戸を開けてみる。
いつもの場所にセンセイがいない。

そういえば、いつもみたいにたくさんの人もいないな…



中に入ってみる。

匂いは、もっと奥からするみたいだ。




「センセイ?」



もう一度呼んでみる。するといきなり戸が開いて・・



「ユエは入ればいいと思います。」



強引に押し込まれた。



「・・・・」「あらっ?」




中ではセンセイと…ブラフが何やら作っている。




「サナリくんじゃない。どうしたの?」



「なんだか甘いにおいがしたから…それ…なんだ?」


ブラフが持っていた変な形の道具を指した。




「これは泡立て器っていう海の向こうのものよ。
今日はやっちゃんの誕生日だから、ちょっと台所を借りてケーキを作ってあげてるの。」





タンジョウビ?ケエキ?なんだか知らない言葉を一気に言われた。






「誕生日はね、その人が生まれた日のことを言うのよ。
生まれてきてくれてありがとうって、その人に伝えてお祝いするの。その時、ケーキっていう甘い食べ物を贈るのよ。」




全然わからないって顔をしていたら、ブラフが丁寧に説明してくれた。




「団子と似てるもの?団子は甘いし、もらったら嬉しい。」




「ちょっと違うわね。ケーキはここの国にはないみたい。まぁアタシも違う国で
作り方は学んだんだけど。お団子と同じくらい美味しいわ。」





「それをあげたら、タイショウは喜ぶのか?」





「ええ。良かったら一緒に作る?サナリくんも一緒に作ってくれたら、やっちゃ
ん凄く喜ぶと思うの。」





「うん。オレに出来るなら。」




「良かった。じゃあこのイチゴを切ってもらえるかしら?」



「わかった。」


不器用に包丁を握って、イチゴっていう赤いものを切り始めた。









「できた!」






見たこともない、白い綺麗な甘いにおいがする食べ物。





「…残念です…これは、切るしかありま…「ダメよ!まだ切っちゃ!サナリくん、これ、やっちゃんの所まで届けてくれるかしら?」




「オレが?」




「ええ。」




「わかった。」



なんだか、この白いふわふわは直ぐにでも崩れてしまいそうだったから。

オレは国府までの道を慎重に歩いた。






「タイショウ、起きろ。」

「ぐぉ…」


タイショウはいつもと同じように陽が照っている国府の部屋で

いびきをかいて寝転んでいた。




「タイショウってば…うあ!!」

急に腕を捕まれたから、手で持っていたふわふわは…





「うおおおお!?」


タイショウの顔に…









「…ごめん。」


少し機嫌が悪そうにタイショウは手拭いで顔を拭っていた。


でもタイショウが悪い。いきなり引っ張るから。





「一体この白いのは何なんだ?おまけに甘ぇにおいまでする。」





「ケエキっていうらしい。オレとブラフで作った。」


「へぇ、またなんで?」


えーっと、ブラフが何か言ってた。今日はタイショウが生まれた日で…



“生まれてきてくれてありがとうって、その人に伝えてお祝いするの”


そうだった。


「タイショウ、生まれてきてくれてありがとう。」




「……ん?」





「今日はタイショウの生まれた日だって聞いたから。」



タイショウは少し考えてから


「そんなもん、しばらく誰にも祝われなかったからすっかり忘れてた。」


と、照れくさそうな顔で笑った。







その後一緒に食べたケエキは団子とは全然違う味だったけど、
思ったとおりふわふわで甘くて、口に入れるとすぐ溶ける。



美味い・・かも・・


「おい。」

「え?」

いきなり頬をぺろりと舐めあげられた。





「なっ・・」




「ついてた。」





そうやってニヤリと笑うもんだから、白いものを手ですくって
ぶつけてやった。




「ちょ、オマ・・」





タイショウは何かいいかけたけど、言葉を待たずに
オレも真似して頬についた白いものをぺろりと舐めてやった。




だって、タイショウばっかりずるい。




「ついてた。」





「・・・・オマエ・・」





「なに。」





「だんだん図太くなってきたな。」





「どういう意味?」





「なんでもねぇ。」





タイショウはそのままオレをぐいっと引き寄せて、





「ありがとな。」





って耳元で呟いた。





近すぎて顔は見えないけど、






多分笑ってるんだろうと思った。








”生まれてきてくれて、ありがとう”







happy birthday to you!!!! April 13th



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