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□【 LOVELESS 】 *sample*
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「キスしたことは…?」









返事の代わりにだるそうに頷いた。




竜は無駄に広いベッドの上でどうしたらいいか分からずに、両膝を抱えて座っている。これからどうなるかなんて、考えたくなかった。

部屋の中には竜以外に4人。ビデオカメラを抱えた男、モニターをチェックする男、ライトを調節する男。そして、竜の前に立って優しい口調で話しかける男。全員知らない男だった。









ついこの間までは。



















LOVELESS【I】



















凶事は突然に訪れる。


学校から帰ってきて玄関を開けると、家族以外の靴が目に入った。それも複数。



ここのとこ来客が多かったので今日も同じだろうと思い竜は気にもとめなかった。夕焼け色に染まる広い廊下を進むと長く伸びた影の向こうに逆光を受けて父親が立っていた。
まだ日が差す時間に帰っているなんて珍しい。


ただいま、と声をかけても返事がなかった。何かまずいことしたかな、と思い返しても事が多すぎて絞りきれず。








「どうしたんだよ、オヤジ」

「竜…逃げるんだ…」



「は?!」

見上げた親父の顔色はいつもの威厳に満ちた堂々たるものとは違い別人の様に血の気が失せて真っ青だった。意味を問おうと口を開きかけた時、いきなり背後から腕を掴まれた。キリリと軋む己の骨。







「小田切さん、冗談が過ぎますよ」

頭の上から謳うように低い声が流れて、竜は腕を掴んだ男が声の主だと知る。









「頼む…。息子は何も知らないんだ」

「そう、でしょうねぇ。知っていたら許さないでしょうから」




竜、と、父親は呟いた。




絶望を孕んだ声音。
いつも聞きなれていた人間の声が全く違う音として耳に入る。何が起きているのか全く理解できなかったが、カタカタと小刻みに震える父親を居間から出てきたスーツ姿の男達が取り囲んだ時は竜は思わず身を乗り出した。けれど掴まれた腕のせいで近寄ることもままならない。スーツを着ていても屈強と分かる体躯の複数の男達に親父が力でかなうはずもなかった。項垂れて青い顔のまま親父は男達に腕を取られ、再び居間へと消えていった。



















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