NOVEL

□貴方の声
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耳に木霊する貴方の声。
何年経っても、何十年経っても。
貴方の声が。
聞こえる。きこえる。
貴方の叫び声が。
貴方の呪いの言葉が───。



   一


「叔父様。このお部屋は誰のものですの?」

茶々たち三姉妹は、完成した安土城を、城を建てた本人、織田信長に案内されていた。この三姉妹を信長は愛し、連れて歩くのを好んでいた。まるで幼い市を連れて歩いていた頃のように。

その部屋に入った時、とても信長の愛情を感じたのだ。温かい日差しのさすがさす部屋。そこにおいてある調度品一つ一つ、生けられた花。全てが温かい。

誰の為に用意されたものかしら?

と茶々は思った。

新しい側室の為のものだろうか?
そう思って、少し悪戯っぽく尋ねたのだ。

しかし信長は、その茶々の思惑に気付かずに微かに微笑んだ。優しく愛情に満ちた顔。普段はいつも厳しい顔で家臣たちに接する顔とは大違いだった。

「これは、五男の御坊丸のものだ」
「御坊丸様?」
茶々の心にストンと落ちる名前。
誰?
その人は…。

「ああ。叔母の浅はかな考えが元で武田に人質に取られてしまった息子だ。もう、十二歳になるかな?」

信長の言葉に茶々は、目を輝かせた。
「まぁ!同じ年だわ!」
「そういえばそうだな。つまり茶々とは従兄妹同士にと言っても会った事がないからな」
「いつか、戻って来られますの?」
「ん?」
信長が眉をピクリと動かす。
「私、御坊丸様にお会いしたいです」
茶々の言葉に、信長は口元の髭を撫でながら茶々を見下ろした。
「いつかな……」

茶々は、御坊丸の部屋に毎日行って、花を生け変えた。時には信長と二人カステイラをお茶請けに二人でお茶をしながら御坊丸の話をした。
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