短編
□SSS
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すっかり暗くなった帰り道。ぽっかりと浮かぶ満月に照らされて、伸びる二つの影。
「雲雀さん、いつもこんなに遅くまで仕事してるんですね。」
学校を出てから続いていた沈黙を先に破ったのは、綱吉。尊敬します、と微笑んだその表情に体温が上がる。
先に近付いて来たのは綱吉。先に好きになったのは、僕。何を考えているのか、最近綱吉は暇を見つけては応接室にやって来る。彼に名前を呼ばれる度、微笑まれる度、僕がどんな気持ちでいるのかも、知らないで。
君が傍にいることが、とても幸福で。
そしてとても、苦しくて。
僕の胸の中にある、君への思いを打ち明けたら、君はどんな顔して、どんな言葉を僕に言うんだろう。
ふと、足元を泳がせていた視線を綱吉に向ける。幸福そうに微笑む彼の横顔を月明かりが照らし出して、その蜂蜜色の明かりがとても。
とても、綺麗で。
「、雲雀さん……?」
気が付くと、綱吉の手に指を絡ませていた。細い指から温かな体温が伝わってくる。
「……ゴメン。」
顔が見れず、視線を逸らして手を離そうとすると綱吉が指先に少しだけ力をいれた。
「あ、あの…オレよく転ぶから…その、…もう少しだけ手、繋いでて貰えませんか?」
驚いて綱吉に視線を戻すと、ひどく真っ赤な顔して、泣きそうな顔で僕を見ていた。
それが、どんな感情からくる表情なのかは僕には決して分からないけれど。
もしかしたらと期待して、いつかは貰えるかもしれないと待ち続ける。
君からの、
………・…・…
愛の言葉
…・……・……
月の明るい夜、手を繋いだ君の幸福そうな顔を、僕ははっきりと覚えてる。
fin