短編

□欲しかったのは。
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敬語とか別に要らないし、本当は名前で呼んで欲しかったり、して。そして出来れば、好きになって欲しい、なんて思ったり。



でもそんなことをさ、言ったら君は困ったような顔してまた笑うんだろう?


必死で出来ない言い訳をしている君を見るのは胸が痛いから、オレはまた、氷が溶けて水っぽくなってしまった元ジュースを啜って言葉と一緒に飲み込んでやる。


でもそんなことをさ、やってる自分も苦しいわけだよ。好きなのに、こんなに好きなのに遠くて遠くて切なくて。



「……獄寺くん、ずっと傍にいてくれる?」


「もちろんですよ、十代目!!右腕として一生御傍で貴方をお守りします!」


ピンと線を引かれたような胸の痛みは見ないふりをして、出来るだけいつも通りに笑ってみせる。


「………ありがとう。」


「そんな!」


そんなにキラキラした笑顔見せないでよ。ああ、だめだ、なんか君の顔が歪んで見える。


「じゅ、十代目!?なんで泣くんですか!?」



ちくしょう君のせいだよ、ばかやろう。手を伸ばせば触れる距離にいる君がひどく遠くて、きっとこの手は届かない。それでも欲しいと望んだその暖かい熱は、彼の主の頬を優しく拭った。ねえ、オレは。頼れる右腕も、死すら厭わないほどの忠誠も、欲しくないんだ。いつだって、ねえ。





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欲しかったのは。
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涙を拭ってくれる右手と、忠誠を誓えるほどの、恋情。




end

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