短編

□天国のような日々を
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今朝も無意識のうちに隣にいるはずの君の姿を探してしまった。夢の中ではちゃんと抱きしめていたはずなのに、夢から醒めた今では君がどんな顔して笑っていたのかも、思い出せなくて。どんなに目を閉じてみてもあの夢の中には戻れないし、せめて君の温もりを思い出そうときつく毛布に包まってみるけど、それはもう、君のいた頃の温もりじゃないんだ。



目覚まし時計に目をやるとタイマーより随分早く目が覚めたみたいでため息混じりにスイッチを切る。時計の針が進む度に僕の記憶の中の君が薄れていくような気がして、慌てて電池も抜いた。止まった針を見ているうちに止まってしまった君のことを思い出した。悲しみと虚しさで頬を生温い涙が伝う。



「……何やってんだろ、僕は。」



そっと、止まってしまった目覚まし時計に電池を入れ直して抱きしめる。中学のとき、寝起きが悪い僕のために君がプレゼントしてくれたもの。十年も大事にしてるんだ、一度も止まらなかったんだ。なのに、なんで、君だけ止まってしまったの。



「……綱吉。」



ポツリと呟いた名前はひどく懐かしくて愛しい音色。静かに瞳を閉じて秒針の音に耳を澄ました。また君の夢をみれるようにと祈りながら。



君のいた、



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天国のような日々を
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ねぇ、どうか


消せるまで、消えないで。



end

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