短編
□夏男の憂鬱
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「……あっつー」
ワイシャツのボタンを3つ目まで開けて下敷きでパタパタと扇ぎながらツナが本日何度目かの台詞を口にした。
茹だるような8月の日差しが教室の温度をどんどん上げていく。数学の補習プリントをこなしているオレとツナの額からじんわりと噴き出す汗。じっとりとした感触がなんとも気持ち悪いけど、ツナと二人ってのは結構おいしくない?なんて考えると自然と笑顔になってしまう。
「なに笑ってんのさ、山本ぉ。あー暑い、死ぬー。」
机を向かい合わせてやっているため、ツナに笑ってるとこを見られてしまった。文句を言いながらばふっとプリントの上に俯せてみせる仕草がなんだか異様に可愛くてときめいた。
「ツナ、暑いって言うから暑くなるんだぜ?寒いって言ってれば涼しくなるって。」
「え、本当?……寒い寒い寒い……全然涼しくなんないじゃん。」
真顔で言えば信じて実践する姿が可愛すぎて思わず吹き出すと、顔を真っ赤にして怒ってくるツナ。ゴメンなって言って頭をくしゃくしゃと撫でると、
「まったく、しょうがないなぁ山本は。」
なんて言いながら許してくれる。ツナの一挙一動が愛おしくてたまらない。
ねぇ、どうしたらオレに振り向いてくれんの?
そんなこと考えてたら、ツナがまた暑いと言った。
「やっぱオレ暑いの苦手だなぁ。」
「オレも好きじゃねーなぁ、暑いのはどうにもなんねぇからな〜。」
「嘘〜?山本は夏好きそう。ニカって笑うと太陽みたいだし。」
「そうか?」
「なんでか良い天気だと、山本の顔が浮かぶんだよなぁ。」
眉を下げて笑う姿に胸が高鳴る。夏なんて、別に好きでも嫌いでもないけど。
「やっぱ暑いけど、一年中夏だったら良いのにな。」
そしたら一年中、お前の頭ん中にいれるのに。
でもそんなことあるわけなくて。夏休みが明けるまでの日数を数えて軽くため息をつく。
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夏男の憂鬱
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夏は直ぐに終わってしまう。
end