短編

□貴方しかいない
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暗闇に浮かぶ橙色の屋台の明かり。色とりどりの水風船や金魚達が宝石のように輝いてみえる。


今日は並盛の夏祭りだ。綱吉は獄寺と山本と一緒に屋台をまわっていた。


「ツナ!絶対景品取ってやっかんな!」

「なっ!テメェ抜け駆けしてんじゃねぇよ!十代目!ここは右腕のオレにお任せを!」



通り掛かった射的の屋台の前でそんなやり取りが行われてから30分が経とうとしていた。まだ二人の決着はつきそうにない。二人を苦笑を浮かべながら見ていた綱吉は、突然何者かに腕を引かれて、屋台の裏の方へ連れていかれた。



「……っちょっと!離してください!」


綱吉はぶんっ、と思い切り手を引き、相手の腕を振りきって睨み付ける、が直ぐに顔を青くして目を大きく見開いた。


「ひ、雲雀さん!?」


「僕の腕を振り払うなんて良い根性してるじゃない、沢田綱吉。」



そう言ってニヤリと笑う雲雀を見て、綱吉はガタガタと震え始めた。


「さ、行こうか。」


唐突に差し出される雲雀の手。理解不可能なその行動に綱吉は首を傾げることしか出来ず、再び雲雀に引っ張られて行く。雲雀の方が歩幅が大きいため、若干早足になりながら思い切って声をかけてみた。



「あの、ど、何処に行くんですか?オレ、山本達のとこに戻らなきゃ、……。」



決死の質問も意見も堂々と無視。綱吉は諦めて口を閉じ、二人とも無言で歩きつづける。やっと雲雀の速度に慣れてきた頃、ピタリと雲雀が立ち止まった。


「ちょっと待って。君、迷子じゃないの?」





「……はい?」


しばらく固まる空気。


「だって呆然と立ち尽くしてたじゃない。随分長い間。」



中学生にもなって迷子になるわけないじゃないか!というツッコミをなんとか飲み込んだ綱吉は山本達と来ていたことを説明した。


「…ちなみにオレはどこへ連れてかれる所だったんでしょうか。」


「迷子センターだけど?まぁ…必要なかったみたいだね。二人のとこまで送ってくよ。」



次の瞬間。


ドンという大きな音と共に夜空が輝いた。



「え……花、火……?」



呆然と空を見上げる綱吉。

キラキラと光り輝くそれはひどく幻想的で。隣にいる雲雀の横顔を優しく照らし出す。



綺麗。



そう思うと同時に、雲雀と手を繋いでいる事を思い出して顔が熱くなった。



今雲雀さんと手繋いで花火を見てるなんて信じられないな。なんで手離さないんだろ、オレ。でも離したくない、かも。ああ、なんか今、オレと二人で花火見たこと、雲雀さんに忘れないでいて欲しい。オレのこと、ずっと覚えていて欲しい。何か印象に残るようなことしなきゃ、何か話さなきゃ。



「綱吉。」



綱吉がそんなことを考えていると突然雲雀が名前を呼んだ。パッと顔を上げた綱吉の頬を両手で押さえて向かい合う。



「……今日のこと、忘れちゃダメだよ。」



そう言って唇を啄むような優しいキスをした。


驚いて顔を真っ赤にしてへたりこんだ綱吉の頭を撫でると、またね、と言って闇の中に歩いて行った。



程なくして山本と獄寺の声がしたけれど、頭の中にはもう、




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貴方しかいない
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忘れるなんて、出来ない。


fin

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