短編

□堕ちたのは、
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「ねえ、沢田。キスしてよ。」








遅刻最多の罰を与えるため、草食動物を応接室に連れてきた。最近退屈だったから何か面白いことをさせようと思って考えを巡らしている間、なにが面白いんだか部屋の隅でガタガタ震えてずっとごめんなさいって繰り返している、彼。別に取って食べやしないのに。ふぅ、と息をつくとバッと顔を上げる沢田。僕は改めて彼を観察することにした。


女の子みたいに白くて細い身体。恐怖感からか大きな瞳に涙をいっぱい溜めて、それでも顔を真っ赤にしながら僕を見上げている。




不覚にも、可愛いなんて思ってしまって、そっと頬に触れた。この子を堕としてみるのも面白いかもしれない。そして冒頭の台詞へ。



「………へ?」


間抜けな声を出して、ただでさえ大きな瞳をさらに見開く。多分彼の頭の中では色々な疑問が飛び交っていることだろう。クルクル変わる表情がひどく愉快だった。


「…ほら、早くしないと噛み殺すよ。」


彼の届く高さに屈んでそっと目を閉じる。彼が息を飲むのが分かる。それでもこのタイミングで逃げようとしないあたり良くも悪くも純粋だな、と思う。そんなこと考えてたら自然と笑みが零れた。


「…どうして、笑ってるんですか?」


不安そうな、泣きそうな声が聞こえた。


「綱吉が、あんまりにも可愛いから。」


なんて言うと、しばらく彼は嬉しそうな、切なそうなひどく複雑な表情をしていたけど、決心したように僕の頬を両手で包んでそっと、触れるだけのキスをした。瞬間、ありえないほど胸が高鳴った。


「雲雀さんは、……ズルイです。」


そう言って真っ赤な顔してボロボロと泣き出した沢田は、応接室を飛び出して行った。







ああ、少しだけからかってやるつもりだったのに。あんなキスくらい、どうって事無いはずなのに。あんな泣き顔うざったいだけなはずなのに。





そっと指先で熱の残る唇に触れる。



…・……・……
堕ちたのは、
……・……・…





僕のほうだった。







end

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