短編

□モラトリアム
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学校からの帰り道。卒業証書の入った筒を振り回していた僕を君は隣で泣きそうな顔して眺めてる。その理由は分かってるから僕は何も言わない。僕と笹川は明日から綱吉達より1年早くイタリアへ行く。綱吉と会うことも当分は無いのだろう。



「離れてもずっと一緒ですよ。」



唐突に君はそう言った。なんて曖昧で不安定な約束。

確証もなくて、むしろそんなもの存在しないって心の何処かでは分かってる。君だって分かっているんでしょう?だからそんなに不安そうに、泣くんでしょう?


(移ろうものだよ、人の心は。)


静かに流れる今ですら何かが変わっていってるのに。

いつかは君だって、きっと僕だって、変わって行くのに。



そこまで考えて胸がぎゅっと痛くなる。


「…雲雀さんも、泣いたりするんですね。」


気付かないうちに僕の頬を温かな雫がつたう。それをそっと指先で拭いながら、あんまりにも君が綺麗に微笑むもんだから、僕はそうだねって言って少しだけ微笑んだ。



何時かは終わる、けどそれは今じゃ無い。だから君の身体を抱き寄せて何度も好きだと囁こう。その言葉が君の不安の傷口に染み込んで優しく君を癒すように。



……・………・…・……
モラトリアム
…・………・………・…


願わくば、少しでも長く、君と


切ない願いは沈む夕陽に溶けて、消えた。




fin

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