番外

□Don't think you can make a fool of me!(ALL)
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 そして後日、私はしばらく塾を離れていた。五日ほど経ち、用事をすませて我が家へと帰る。その道の途中、向こう側から誰かが歩いてきた。普段であれば会釈ですませるが、その顔が見知った者であったので、声をかける。
 
 
「やあ、こんにちは」
「! こっこれは松陽どの」
 
 
 名無しさんの将来の夫となるかもしれないという可能性が万が一でも一応ある、男だ(これは決して嫌味ではない) だがその男は私をみとめたかと思うとぎくりとした表情を浮かべた。しかしこちらとしては心当たりがない為、普段通り会釈をする。そういえばこの道は一本道で、塾へとたどり着く。ということは私が留守の間に訪ねられていたようだ。しまった、と心中で舌打ちをしたい思いに駆られる。相手は私よりも上の位だ。失礼のないようにしなくてはいけなかった。これが今後響かないといいが……。
 
 まあ終わったものは仕方がない、と気を取り直し、むしろそれについて話すことにした。
 
 
「訪問するなら連絡をしてくだされば良かったのに」
「いやあ、名無しさんさんが松陽どのには内密でどうぞと誘ってくれたので」
 
 
 その割には、まるで逃げたかのような歩き方だったが、いったい何があったのだろうか。不安になった私は眉を八の字にして、
 
 
「もしや名無しさんが何か粗相をしましたか?」
「いやいやとんでもない、むしろあのガ…」
「が?」
「………松陽どの、大変言いにくいが、」
 
 
 そう前置きしたくせに、口から出てきたものはすらすらと言葉を連ねていき、そして「失礼致す」と足早に去っていった。完全に蚊帳の外にあった私は、何がなんだかわからない。
 
 
『自分から申し出たものの、やはり名無しさんさんには自分は合わない。なのでこの縁談はなかったことにしてほしい』
 
 
 まったく訳がわからない!
 
 
「名無しさん!」
「あらお兄ちゃん、お帰りなさい!」
「お帰り松陽せんせー!」
「遠出ご苦労様でした」
「あらヅラちゃん、もうそんな難しい言葉覚えたの? すごいねー」
「…ヅラじゃない桂だ」
 
 
 玄関で声をあげれば、すぐに飛んできた妹、と晋助、小太郎、銀時。なぜか四人ともご機嫌のようだ。

 私はコホンと咳払いをして、「さっき道ばたであの男に会った」と言った。すると晋助が目をらんらんと輝かせて、
 
 
「あいつなんか言ってた?!」
「は? ……それは…言っていた、な」
 
 
 だが、これを名無しさんの目の前で言うのは心苦しいものだった。せっかくの女としての幸せをつかめなかったのだ。ところがそんな私の気遣いは、当の本人が見事に破壊する。
 
 
「あの人、婚姻をなしにしてくれた?」
「!! なっ何故それを」
「だってそーゆー風に仕向けたの、おれたちだもん、な!」
「なんだと!?」
 
 
 晋助の同意を求める声に、小太郎と銀時がこくりと頷く。名無しさんはというと、苦笑いをしながらも否定はしない。
 
 居間にあがり、私はようやく詳しい話を聞くことができた。どうやら私が外出の間にあの男を呼んだこの子たちは、ありとあらゆる嫌がらせをしたらしい。晋助が一番自慢するのは「風呂を沸かしたとみせかけて水風呂に浸からせる」、小太郎は腕を組んで「小一時間ほど難しい問題を問い続けた」と言った。他の子も集まってきて、僕はこうした私はああしたと言い出す。これを聞いていると、なんて生徒たちだ、と頭を抱えたくなる。きっと被害者となった男はそれこそ憤慨したい気分だっただろうが、きっと名無しさんの手前でもあるし相手が子供のため我慢していたんだろう。あの時何も責められることがなくて、奇跡だと思う。
 
 ただ銀時は何も言わなかったので、少しホッとしながら問いかけた。
 
 
「銀時は何もしていないのかい?」
「してねー」
「嘘だ、お前が一番酷いだろ」
「酷い? 銀時は何をしたんだい晋助」
「したんじゃなくて言ったんだよ。あいつが玄関で草履脱いであがった途端、『お前の足 馬糞の匂いがする』って」
「…………………酷い…な」
 
 
 そしてとどめの嫌がらせか。これでも名無しさんとその仲間たちと一緒にいたいなんて男はほとんどいないだろう。どうやら名無しさんが女の幸せをつかむことができるのは、当分先のようだ。
 
 
「安心しろよ先生、名無しさんはずっと一緒だから!」
「当たり前でしょ晋ちゃん、ずっと一緒だよ。……だから今日こそは、お野菜食べましょうね」
「げっそれはやだ!!」
 
 
 まあ、今回は本人がそれほどのっていなかったのもあるし、これでよしとしよう。
 
 済んでしまえば、不思議と笑いがこみ上げてきた。
 
 





 
 
 
なめんなよ!



















すみません、松陽先生の口調一切わかんないので適当です・・・!!
リクありがとうございました!

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