TWO!

□TWO!15
2ページ/2ページ

 




 一方、道を歩いていた名無しさんは大空を見上げ、顔をしかめた。まだ降ってはいないが、雨雲が空をうめつくしていく。早めに買って帰らないと。

 スーパーの手前にある赤信号で立ち往生している時、すぐ隣の男らが話していたのがふと気になった。


「そういやあな、お前に会う前、妙な男に会ったんだよ」

「妙な男だァ? んなもんそこら中にいるじゃねェか」

「いや、そうじゃあなくてよ。変ななりで、あまり近づきたくねェ輩だったな」


 物騒な話だわ、と思うも、目の前の信号はなかなか青にならない。車が急いで通り過ぎるだけだ。


「へェ、もしかしてそいつ攘夷志士だったりしてな」

「んなわけあるめーよ、それなら俺ァこの場に生きていねーよ」

「確かになァ」

「まあ聞けよ。そいつが着てる着物がさ、また派手でな。顔は笠かぶってたからわからなかったんだが、今時珍しく煙管ふかしてた男だったよ。そんで俺に尋ねて来たんだ、ちっこい天人を見かけなかったかって」

「ほう。そんでお前はどうだったんだ?」

「いや、驚くことにちょうどそいつに会う前、見かけたんだ。俺の目の前を、ちっさな天人のオッサンが港に走り去っていったもんだから、そりゃ記憶に残るわな」

「がはは、ちっせーオッサンか! そりゃ残るな」

「それを言ったらそいつも港の方向に歩いてったからな。多分ありゃあ追っ手だぜ。きっとあの天人たちが、最近起こってる町娘誘拐の犯人で、それをあの正義の味方が追ってるってなかんじで」

「天人なんかみんな怪しいもんだろ。そんなことでいちいち事件とくっつけてたら、全天人が町娘誘拐してもおかしくねーぜ」

「ははっまあな」

「だがよ、俺も聞いた事あるぜ。女みてーな派手な着物着て帯刀してる、攘夷志士なら」

「げ、もしかして俺そいつに会ったってのか? 助かったぜ」


 見るからにホッとしている青年に、もう一人はカカッと笑い否定した。

 信号がようやく青になる。名無しさんは横断歩道に一歩踏み出した。


「もし本人ならお前は本当に斬られてらァ。なんせその攘夷志士ってのァあの桂小太郎と互角に敵対してる、」


 高杉晋助。

 男から発せられた名に、横断歩道一歩目で名無しさんの体が硬直した。

 今、この男の人、なんて言った?

 愕然とする名無しさんの横を、二人組はなんなく過ぎていく。


「ああ、幕府の官僚が皆殺しになった事件の犯人かァ」


 皆殺し。

 物騒なんて言葉では片づかないその言葉に、名無しさんは我が耳を疑うしかない。

 どういう事なのか、まったくわからない。


「だからおめーの会った奴は、高杉じゃねーよ。ま、偽モンで命とられずにすんだな」


 二人で楽しげに笑いあう、その背中を見届ける間もなく、名無しさんは踵を返した。



















●なんかあれだよね、明らかに聞かせてる的な会話だよね…でもいいんだよ、おはなしだから!(お前)●
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ