TWO!
□TWO!11
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「名無しさんー」
「ん、なにー?」
台所から返事がくる。洗濯物を名無しさんの部屋に運んで一息ついてテレビを見たら、あろうことかアイツがまたテレビに出てた。
ヅラ、の一言に、包丁を持って名無しさんがテレビの前に立つ。オイオイオイ危ねーだろ!
「ほんとだ、ヅラちゃん! ……でも、何この衣装」
「今のアイツにヅラとか桂とか呼んでも無駄だ。キャプテンカツーラだから」
「え?」
海賊みたいな格好で眼帯をして真面目に出演するカツーラに、俺は殺意をおぼえた。マジでうざい。しかもよりによって今日の今こいつを見るのが、非常に腹立つ。そしてチャンネル変えようとしたら思った通り、
「ダメ! ヅラちゃん応援しなくちゃ!!」
名無しさんはビデオの録画までセットさせて(カラクリは苦手らしい、そりゃなァ)ようやく安心すると、台所に戻った。
そして残った俺はそれを見るしかなく、ぐちぐちと文句を垂れながら飯を待った。
「飯うめーのに、ヅラがいると胸糞悪い」
「そんな事言わないの。これってなんの番組?」
「あー、ペット自慢する番組。まだやってんのか、しかもエリザベスだし」
「えりざべすっていうの? なんだか日本語離れした名前だね」
「そりゃそうだろ、日本人じゃねーし」
そんな会話をしつつ、ご飯を二杯おかわりしてたらふく食った後、あくびをした。腹の皮が張りゃ目の皮が弛むっつうのは本当みてーだ。
皿を片づけている名無しさんと目が合うと、こっそりと笑われたような気がした。
「腹の皮が突っ張れば目の皮が弛む、だね。寝る前にお風呂入ってきなよ」
「………(あー、一緒)」
どうでもいい事にちょっと機嫌が良くなる俺は、こいつの前じゃまだ子供な理由がわかった気がした。素直に風呂場へ向かって、目を覚まさせる。
しかしその後ソファーに寝っ転がって、名無しさんが皿洗いをしているその音を聞くと、どうしても眠くなっちまう。安心しすぎるにも程があんだろ、俺。もしこの場に(ボケたりちょっかいだす)神楽がいたら、この気持ちよさは味わえないにちげーねェ。定春も安心しきった様子で寝てらァ。
ちくしょう、目の皮で視界が覆われていく。遠くで「銀ちゃん」と呼ばれた気がしないでもないが、俺は気にせず まぶたを閉じた。
「………」
そして気がつきゃあ、真っ暗だ。何時かもわかんねーけど、真夜中なのはわかる。
ここで寝たら間違いなく風邪ひく。浮気疑惑の夫とマチコ(ミチコだっけ?)の一件以来、俺は風邪を引かないようにしようとしている(神楽が俺に似てきたって新八に文句言われたな) しゃーねー、部屋戻るか。
ふらふらした足取りで適当にうろつき、部屋を見つける。ふすまを開けて、敷いてある布団に足を入れる。思いの外あったかいそれは、暑いほどでもなく、むしろ心地よかった。
あれ? 枕がない。まァいいか、別に。眠ィし。
それにしても勿体なかったなー今日は。恋人らしい事でもして俺を意識させる時間もあっただろうに、実際はその俺が寝るとかお前、何このアホらしさ。
「(チクショー…!)」
少しいらつきながら腕を何げなくのばすと、何かに触れた。なんだ、と引っ張るとそれは何かの布で、鼻を近づけるとあの懐かしい香りがした。これも睡眠に拍車をかけていく。
それがなんだとか、まったく疑問にもたず、俺は今度こそ意識を手放した。