TWO!
□TWO!1
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客は2人で、母親と娘か? 娘は笠をふかく被ってうつむいているが、母親はそんな娘の肩をだいて心配そうにしている。
そんな客の前に出されたお茶はすでに冷めていて、やべ、こりゃ流石に待たせすぎた……と一言詫びようとしたら、それよりも早く母親が言った。
「お願いします、この子を助けてください」
「……助ける?」
「ええ、ちょっと……訳があって。私はこの子を海岸に打ち上げられたのを保護したんです」
「保護ォ?」
「貴方の娘じゃないんですか?」
「いいえ、違います。でも この子の状態を知ったら心配になって、家に連れて帰りました」
なるほど、この母親……じゃねェ、依頼者は下のババアと同じくらいお人好しな人間みてーだ。
黙ったままの娘を見ながら、
「……すごく、貧乏そうな格好だったし、もしかして自殺しようとしたのかもしれません。あ、これ、その時の着物です。何か参考になればいいんですけど」
大きな袋を受け取る。後で見るか……今はそれよりも聞くことが多い。
「へェ。そういや状態って言ったけど、どんな状態なわけ?」
「……記憶を、失っているようで。自分の名前も、住所も、電話番号もわからないんです」
「記憶」
その単語に、俺ら3人とも嫌な顔をする。経験者である自分自身が言うのもなんだが、厄介だ。
それに、記憶を失ったら病院に行くべきじゃねーのか? それを問うと、依頼者は声をひそめた。
「それが、一度連れて行って入ろうとしたらすごく嫌がって……」
「別に病院が嫌いな奴なんてうじゃうじゃいますよ」
「……まるで初めて病院に入るみたいに、怯えるんです。その怯えようが尋常じゃなくて、可哀相になって連れていけず……」
そう言う依頼主から、今度はその娘を見た。一言も口を発さない彼女からは、生気を感じない。
「お願いします、これは万事屋さんしか頼れないんです。報酬もきちんと用意していますから」
「……どうします、銀さん」
「どうするも何も、頼まれればなんでもやるのが俺らの仕事だろうがよ。それに今月ピンチだし、天の助けを無駄にするわけにもいかねェ」
そう言うと、依頼主は頭を下げたが、娘は硬直したままだった。
チクショー、記憶喪失者とはいえ礼儀まで忘れてんのかこいつァ。
それに笠もまだ被ったままだ。依頼主は娘が人に顔を見せるのが嫌で笠を外さないという。
そんなんじゃ戻る記憶も戻らねえっつの。
「おーい、そろそろ取ってもいいんじゃないのそれ。俺らもう仕事引き受けたから、君の記憶戻してやっから」
「…………」
「それじゃあ、私はこれで。すみません、また後日お伺いに行きます」
「あ、はい」
新八に封筒を渡して、依頼主は帰る。
それを見届けて、娘は躊躇しながらも笠を取った。
どこかで見たような髪型と、どこかで見たような顔。
ただ、圧倒的に違うものがある。
目に生気が宿っていない。
それでもわかった。
夢で久しぶりに再会した、
「……名無しさん…!」
あの女だったから。