番外
□君の泣いた声が聞こえる。(桂)
1ページ/3ページ
ご飯だよー、と、いつもの名無しさんの声。それに真っ先に反応するのは、さっきまで目の前にいたはずの奴だった。お互い泥だらけで、庭から縁側にのぼる。
「腹へったー! 今日こそ肉が出ますように、肉ー!」
「あはは、晋ちゃん残念でしたー。今日もお野菜だよ」
「げー! なんだよ、また野菜?!」
自分よりも名無しさんが大好きで、自分よりも名無しさんに甘えるのが得意で、……いや違う。得意なんじゃない、素直なんだ、あいつは。
文句を言いながらも名無しさんにくっつく、奴の表情は楽しそうだ。
「……ところで晋ちゃん」
「なん…ラッ?!」
名無しさんはこっちとあっちを交互に見て、高杉の頬をつねった。いでーいでーとわめくのを無視して、こっちに来る。
そしてその細い指が俺の鼻の下に触れた時、名無しさんの指が不自然に肌をすべったことで、はじめて血が出ている事に気づいた。さっき真正面からくらった拳のせいだ。名無しさんはすぐに懐から真っ新な布を出すと、俺の鼻血を拭き取った。
それに比べ、たいした傷のない高杉は、「だっせー」とばかりに俺を見てにやにやと笑っていた。うるさい、こっちを見るな。
「晋ちゃん」
「何?」
「ご飯抜きね」
「えええええええ!!!」
「……文句、あるの?」
高杉のほうを振り返っているため名無しさんの表情はわからないが、抗議しようと口を開けた高杉が黙るのだ、きっと恐い顔なんだろう。
すねた表情をする奴に、今度は俺がにやりと笑ってやった。