番外
□君の怒った声が聞こえる。(高杉)
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「やあああ!」
突進してくる相手を横に飛んで避けると、振り向きざまに思いきり拳を突き出した。それは相手の横っ腹に入って、すっきりした。
そのまま泣き出す相手に、おれは自信満々で言い切った。
「おれに勝とうなんて十年早いん」
「晋助!!」
言い切る前に、頭にげんこつが降ってきた。見なくてもわかる。声だけじゃない、風にのってきた匂いでも。
買い物から帰ってきた名無しさんにしがみつきたい気持ちを 相手に悟られたくなくて、わざと突っ張ってやった。
「いってーな、何するんだよ名無しさん! おにばば!」
「何するんだよ、じゃないでしょう。泣いちゃってるじゃない。あと、鬼婆って言わないの!」
どこで覚えたのそんな言葉、と口を「へ」の字にしながら、おれよりもその相手に駆け寄った。
それにむっとしながら、後ろからついていく。
「大丈夫? ごめんねえ、痛かったでしょ」
「ひぐ……」
「名無しさんー、早く戻って飯作ってよ。俺もう腹へったー」
だいたいそんな奴どうでもいいだろ。
泣きじゃくる相手の頭をなでる名無しさんに、余計むかむかしてくる。
だから、本当はお腹なんか全然空いてないのに、うそをついた。なのに、名無しさんはおれと目をあわさず、そいつをだっこした。
くっそー、腹立つ!!
「あーっずりー!! なんでそいつばっか、かまうんだよっ」
「あのね、こうしたのは誰だと思ってるの。悪いけど、この子の手当が先だから、もうちょっと待っててね。それに晋ちゃんは今日寝坊して、さっき朝ご飯食べたばかりでしょう?」
「やだ!! もうお腹空いた!」
「…晋助、いい加減にしなさい」
困ったような声から、静かに怒る名無しさんの声。いつも俺をまっすぐ見据えてくれる目は好きでも、今のこの目は好きじゃない。……俺がそうさせたんだけど。
黙り込んだ俺の頭を、空いている方の手のひらで少しだけ包みこんでから、名無しさんは歩いていった。