番外

□小さなさなぎ(トリオ)
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 ひらひら、と。

 桜の花びらが一枚、名無しさんの手のひらにおちた。


「あら」


 洗濯を外の竿に干し終わり、縁側に腰掛けている時だった。

 まだきれいな桃色の花びらだが、ちょっとした風に吹かれただけで散ってしまったらしい。目の前の木を見上げると、風が吹くたびに少しずつ花びらが舞っている。


「きれいだねえ……」


 雲一つない青空を桃色の雲が浮かんでいるように見える。そんな春空を2匹の雀が交互に飛んでいく。

 平和だ、と思った。


「ふう………」

「名無しさん!!」

「わあっ」


 ため息をついた直後、背中におぶさってきた何かに仰天する。だがその声はすぐにわかった。名無しさんは苦笑いしながら、


「重いよ晋ちゃん」

「重いのは名無しさんだろ……いてェ!!」

「ふふ、ヅラちゃんありがとう」

「何すんだヅラ!」

「ヅラじゃない、桂だ」




 晋助を名無しさんの背中からべりべりとはがした小太郎は、名無しさんの隣にちょこんと正座した。だがおもむろに口を開け、大あくびをする。


「あら珍しい、ヅラちゃんがあくびだなんて」

「ヅラじゃない、桂だ」

「どうせエロいこと考えてて、ねぶそくだったんだろ」

「お前といっしょにするな」

「………」

「………」


 無言で取っ組み合いを始める2人の首ねっこをひっつかみ、両成敗をする名無しさん。虐待だと晋助に言われても名無しさんはニッコリ笑って流した。


「違うよ、虐待じゃなくて愛のムチだよ」

「こんな痛い愛のムチなんていらねーよ!」

「晋ちゃん、おいで」

「………」


 名無しさんが笑顔で、ももをポンポンとたたく。

 しばらく何かと葛藤していた晋助は、やがて黙ったまま寝転んだ。そして名無しさんの太ももに頭を置く(小太郎から非難の眼差しを感じたが、にやりと笑って返した)


「いー天気だな」

「そうでしょ? 今日は良い天気だし桜も素敵に咲いてるし……お昼は庭でお花見しようか」

「風流だな」

「よくそんな言葉知ってるね、ヅラちゃん」

「ヅラじゃない……」


 その後「ふわーあ」と再びあくびをする小太郎に、名無しさんが片腕を伸ばす。


「少しみんなでお昼寝しようか。ヅラちゃんは膝枕がいい?」

「だめ!!」


 頭を起こした晋助が、名無しさんの太ももに素早く体を乗せる。その必死に、呆れたとばかりに名無しさんがため息をついた。


「いいでしょう晋ちゃん、お互い片方ずつの枕で」

「いや……なんかヅラだとやだ」

「ヅラじゃない桂だ。おれとて、ねがい下げだ」

「まったく、しょうがない子たちだね。意地っ張りなんだから」


 小太郎は名無しさんの隣に密着すると、ぽてんと首をかしげた。名無しさんは縁側に足を投げ出して腰掛けているが小太郎は正座をしているため、座高の差が縮まり、ちょうど頭の位置が名無しさんの肩の少し上に当たる。

 そのまま目をつぶる小太郎の髪を、名無しさんはゆっくりとなでた。


「なあ、名無しさん」

「ん、なあに?」

「…おれ、ときどきなんだけど、恐くなるよ」

「どうして」

「こうやって過ごす時間はずっとじゃないんだろ。こうしてる間に天人はどんどん増えていって、国がかわっていく。……って松陽先生が言ってた。それ聞いたら、なんか恐くなってきた」

「………晋ちゃん、大丈夫だよ。国が変わっていっても、わたし達は変わらないんだから。恐くもなんともないよ」


 晋助の額をゆっくりとなでる。それにホッとした晋助は、あくびを一つしてまぶたを閉じた。

 そんな時、背中に生暖かい感触がした。首だけ動かして振り向くと、肩越しに銀色の髪が見える。


「銀ちゃん」

「………」


 背中合わせで座った銀時は、ただ一言、


「ねみい」


 それきり黙り込んだ。そして背中にずしっと何かがもたれたのを感じ、名無しさんは苦笑いする。どうやらこの陽気な気候には、食い気より眠気がぴったりらしい。

 いつもなら昼飯昼飯と騒ぐ3人(小太郎は言わないが目で催促する)が揃って睡眠なんだから、春ってすごいのね……と他人事のように思う名無しさんだが、次第にうとうととしてきた。


「………ふわあ…」


 いけない、銀ちゃんがつぶれちゃう……でも眠…い……。








それは小さな春のおはなし。





「名無しさん、起きなさい!」
「うーん…お兄ちゃん…もうちょっと…」
「もうちょっとじゃない、このままじゃ銀時が…!!」

「え?」









EDに触発されて……!

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