番外

□Don't think you can make a fool of me!(ALL)
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ある日突然、それは起こった。

「名無しさんちゃんが、お見合い結婚するって本当?!」

 
 
 
 
 
 その発言に、飲んでいたお茶を勢いよくふく小太郎、晋助。銀時はお茶を飲んでいなかったが、先ほどまで鼻ちょうちんをふくらませていたにも関わらず、今はすっきり目が覚めている。
 参った、すでに近所の女子は耳にいれてしまっているらしい。やはり料亭へ向かう途中見られていた気がしたのは、間違っていない。名無しさんが買い物からまだ戻ってないところを見ると、道ばたで質問攻めにされ思わず口を滑らせた、といったところだろう。それにしても、ああ、困った。まさか滑らせた相手がこの、
 
 
「なんでも相手は、すっごいお偉いさんの武士で格好良くてお金持ちで道場も援助金出してくれる優しい人なんでしょ?! やったね、名無しさんちゃん玉の輿じゃない!!」
「いやあ、実際はそんな大げさなも」
「まったまたー謙遜しちゃって! いやあでも良かったね、名無しさんちゃんにもようやく春がきて。私すっごく心配してたの! あっいっけない私ったら買い物の途中だった! じゃあお邪魔しました松陽先生!」
「あ、ああ」
 
 
 おしゃべりな人だったとは!
 
 しかし、それを後悔するよりも先にやるべきことがある。この場からすぐに立ち去らなければ。「それじゃあそろそろ勉強を再開しようか」と立ち上がった私の袴の両方の裾を、双方の手がそれぞれつかむ。手をのばした障子の前には、いつの間にか銀時が座っていた(時々思う、この三人は本当に子供なのかと)
 つまり、遅かった。
 有無を言わさない目つきに睨まれた私は、咳払いをして、何事もないような表情を浮かべる。
 
 
「どうしたんだ三人とも」
「先生、今の話本当?」
「今の話ってなんのことだい?」
「名無しさんがお見合い結婚すると」
「…………」
「……」
「……睨まないでおくれよ、銀時」
 
 
 迷った末に、仕方がないとため息をついた。そして再び正座をして、「黙っていて悪かった」と口火を切ることにした。
 
 縁談を申し込んだのは向こう側だった。以前ここを訪れた際に献身的な名無しさんを見て、惚れ込んだらしい。簡単なことのようだが、「惚れ」というのは一番厄介なきっかけだ。なかなか諦めてくれない上に断ると逆上する場合がある。
 
 
「先生、それってつまり、名無しさんが好き好んでお見合いに行ったわけじゃないってこと?」
「まあそういうことになるかな。ただあちらさんは息子も両親も名無しさんを気に入ってしまったらしくてなあ。こっちの言い分も聞かず勝手に婚礼で盛り上がって困ったよ」
「ふーん……」
 
 
 晋助が黙り込むのと同時に、今度は小太郎が挙手した(名無しさんが「意見がある時は挙手しなさい」と言ったのを見事に遂行している。従順だな……) なんだい、と顔を向けると、
 
 
「名無しさんが嫁に行く場合、どうなるのですか」
「うーん……一応武家のしきたりなんぞを身につけなくちゃいけないから、あっちの屋敷で当分花嫁修業だろうな」
 
 
 銀時も何か言うかと思ったが、この子はただボーッとしている。よく寝る子だ、と名無しさんは呆れていたけど、それは名無しさんに構ってほしいからじゃないのだろうか。
 
 
「ま、嫁いでもここでまた住むかもしれんが……そうすると、夫も住みそうだな」
「「絶対にやだ!!」」
「ははは……(えらい嫌われようだな) まあこの話は終わりにしよう、本当に勉強を再開しなくては」
 
 
 こうしてなんとか話は終わったが、もし名無しさんが嫁いで戻らなかった場合、今度は私がこの子らの面倒をみることになる。……どうしよう、と不安になってきた。
 
 
 
 
 
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