番外

□the winter solstice
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 冬といってもまだ夕方だ。それなのに、今日はいつもよりすでに暗い。

 そういや朝、なんか名無しさんが言ってたな。今日はたしか、


「お帰りなさい銀ちゃん! 今日もお仕事お疲れ様!」

「おー、頑張ってきたぞー仕事」

「これからご飯にする? それともお風呂?」

「お前」

「え?」

「いや、なんでもねーわ。メシにする」


 突然人差し指を突きつけられた反応は、本気で不思議そうな顔をしている。うんうん、名無しさんは本当に普通の女だ。妙な感動をおぼえながら、俺は名無しさんにマフラーを渡す。ここのシーンだけ切り取ると見事に夫婦だよね俺ら。

 ところが世の中そう上手くいかねーのは百も承知だ。思った通り、廊下の向こうから非難の声が相次いできやがる。


「嘘つくんじゃねーよ天パー! 途中で消えたと思ったらパチンコでパチパチやってただろーが!!」

「そうですよっ、僕と神楽ちゃんで頑張って犬を捕まえた苦労を知りもしないで!」

「お前は何もやってねーだろ、ダメガネ」

「やったんですけど!! 指示からオトリまで全部僕がやったんですけど!!」

「二人とも、ずっとああ言ってたのよ。銀ちゃんだって頑張ったのにねえ?」

「………ウンそうだね」


 それにしても声だけは ばかでけーのに、なんでここまでこねーんだと思ったら、こたつでぬくぬくしてやがった。

 それにカッとなり、思わず「銀サンだってなァ頑張ってパチンコで稼いできたんだぞォォォ!」と白状してしまった。

 後ろから突き刺さる視線。こいつがサボリに厳しいことは幼少の頃から承知だ。


「銀ちゃん」

「………あー俺やっぱ風呂入ってくるわ」

「銀ちゃん」

「すいませんでした」

「うん」


 罰として皿洗いね、と宣言をうけてからこたつに入る。別にそれくらいどーってことねーし、蛇口からお湯出せば余裕だし?

 すると新八が「名無しさんさん、銀さんに甘過ぎですよ」と眼鏡をくもらせた。


「まあまあしょうがないよぱっつぁん、おめーらより俺のほうが名無しさんと付き合い長いんだし?」

「あら、皿洗いは一週間継続だよ銀ちゃん。一回でもし忘れたら一週間追加だからね」

「………」


 こたつの台の上におかれていく晩ご飯は、いつもより豪華だった。

 かぼちゃ煮の中にはかぼちゃ、にんじん、れんこん。ぎんなんの入った茶碗蒸しに、寒天ゼリーにそえられたきんかんと、主食のうどん。

 これはガキん時から知っている献立だ、懐かしーな。まさかこの年齢でまた食えるとは。


「わー、かぼちゃアル!」

「そうだよ、今日は冬至だからね」

「そういえばそうですね。今日は昼が一年の中で一番短い日でしたっけ?」

「そうそう、よく知ってるねえ新八くん。今日のお風呂には柚浮かべてるんだよ」

「なんで柚アルか?」

「どうしてかはわからないけど、昔から冬至の日は かぼちゃを食べて栄養をつけ、柚湯で身体を温めることでね、無病息災を祈る慣わしがあるんだよ。かぼちゃを食べると、厄よけになるとか、風邪をひかなかったり一年中おこづかいにこまらないとか、長生きするっていう言い伝えがあるんだ」

「へえ、そうなんですか。でも今日はかぼちゃだけじゃなくて、夕食にうどんなんですね。こっちも意味があったりして」

「うん、ばっちりあるよ。冬至に「ん」のつく食品を食べると幸運が得られるっていう話を近所のおばさんから聞いててね。うどんは出世するみたいなの。銀ちゃんと新八くんが出世しますように、ね」

「名無しさん、私は出世しなくていいアルか?!」

「それを言うなら、神楽ちゃんは出世じゃなくて玉の輿かな?」


 ふふふ、と楽しげに笑う名無しさんをみて、俺の頬は自然とゆるんだ。やっぱりこいつがいると、どんな集団でも家族に見えてしまう。あのガキん時もそうだった。


「なんだかねェ」


 しかしなんつーか、嬉しいような、悔しいような、複雑だ。

 まあいい。今は一緒に暮らしてる。それだけで良しとしようじゃねーか(少なくともヅラや高杉よりもリードしてるしな!)



















「ん」のつくもの食べて、元気に年越しましょうね!

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