TWO!
□TWO!15
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十月に入った。
世間ではそれくらいどうということではないのだが、名無しさんは不思議だった。
あれから。
名無しさんが、依頼主に万事屋に連れてこられたのは二か月前のことだ。しかし、依頼主はそれきりで、今日まで全く現れていない。町で見かけもしないのだ。
銀時にそのことを言っても、「別にいーじゃん」と相手にしてくれない。その真意を知らない名無しさんは溜め息をついておわった。
窓をあければ、曇り空だった。もうすぐ夕方だが、すでに薄暗い。
「あら、雨が降りそう。今のうちにお買い物行ってこなくちゃ」
「おーし」
「あ、銀ちゃん達は来なくていいよ」
思いもしない言葉に、腰をあげた銀時とメガネをふいていた新八と酢昆布をかじっていた神楽は目が点になった。かと思えば銀時が名無しさんの肩を素早くつかみ揺さぶる。
「怒ったのか、まさか別にいーじゃんで怒ったのか?! 違うんだよ〜あれァ別にどうでもいいっていう意味のいーじゃんじゃなくて」
「ちっ違うよ! 一ヶ月経っても来ないなら、二ヶ月経ったそろそろじゃないかなって思って……ぎ、銀ちゃんくるし…!」
ようやく解放されて、たまった息を吐き出す。そして名無しさんは玄関に出ると、銀時たちを振り返ってにっこり笑った。
「ほら、そろそろ引き取りに来てくれないと、迷惑でしょう? 私は本来この時代にいちゃいけない人なんだもの」
「な、」
「行ってきまーす」
言葉こそ軽快だが、名無しさんは顔を決して見られないように、素早く扉を閉めた。
その背中と扉をぼんやりと眺めていた銀時は、短い舌打ちをして居間に戻った。そして事務机を避け、専用の椅子に腰掛ける。
気まずい沈黙を打ち破ったのは神楽だった。
「銀ちゃん、依頼した奴が来たら、名無しさん、本当に返すアルか」
「……それが仕事だろーが」
「私、名無しさんのことマミーみたいで大好きヨ。いなくなるのもう嫌アル」
「いなくならねーよ。聞いただろ、あの依頼主江戸に住んでるって。いつでも会えるじゃねーか」
「……………銀さん、」
「あーもううるっせーな、しばらく俺に呼びかけるな、俺の名を呼ぶな」
「や、そうじゃなくてテレビ」
やや緊張気味の新八がテレビを指さす。アン?なんだよお前オタクニュースにゃ興味ねーんだよと毒づく銀時の耳に入ってきたのは、「婦女連続誘拐事件」の最新ニュースだった。
犯人がまだ特定できず、警察が手を焼いている事件でもある。ただ不思議なのは、誘拐された人は早い時は翌日、遅くても数日で解放される。それでも解放された女性らはみんな「誰なのかわからない」としか言わず、捜査は難航しているらしい。
そのニュースを、新八は真剣な目で見ていた。なになに、と神楽も興味をもってテレビを見る。
「これ見てください銀さん、誘拐された、または誘拐されそうになった女性の人、みんな髪型や年代が一緒なんです」
「そりゃお前、誰かを狙ってんだろーよ。そんで人違いだったら解放してんだろ?」
「銀ちゃん、この特徴、全部名無しさんに一致してるアル」
椅子の背もたれに思いきりもたれかかっていた銀時は、叫んだ途端椅子ごとひっくり返った。だが慌ててテレビの前に顔を寄せる。
本当だった。髪型も年代も名無しさんと一致している。まさか。
「……い、いやいや〜〜、でも別にこれとあれは関係なくね? お前ら見てんだろォ、あの女の貧乏な顔。犯人が狙ってんのはきっと金持ちでこの髪型でこの年代の女なのさ」
「何そのムチャクチャな推理?! そこまで範囲絞られてんならその家狙えばいいじゃん! みんな町娘なんですよ、町娘」
「なんにせよ、名無しさんが狙われる可能性もアルネ。私、スーパー行ってくる!」
「ちょ 待てよ!」
「うざいんだけど! この非常事態にモノマネとかうざいんだけど!!」
銀時の外れたボケに手厳しくつっこむと、新八は神楽を追って玄関に走った。
それを見て、銀時も髪をかきながら木刀を手にした時だった。
「わっちょっと!」
新八の慌てた声に、居間から玄関を見る。
その姿に、銀時はどこぞの男のごとく瞳孔を開く。
「アンタは……!!」
「すみませんっ、あの子いますか…?!」
着物を所々血で汚した、名無しさんを万事屋に預けた依頼主が息をきらせていた。