TWO!
□TWO!19
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目覚めた時にいた部屋で晋助の話を簡単に聞いた名無しさんは、何も言わなかった。
いや、言えなかった。
彼女とてすべてを許すほどの寛容さをもちあわせているわけではない。そもそもこうなった原因がその天人なのだ。それなりの報いを受けてほしいとは願った。
だが、実際 自分のせいで三つの命があっという間に去ったのかと思うと、やるせない気持ちになった。
複雑な心持ちで、名無しさんはようやく声を絞り出し、「そう…」とだけこぼした。そして窓を見ていた視線を、隣で名無しさんと同じようにベッドに腰掛けている晋助に戻す。
「…ねえ晋ちゃん、その人たち、最期に何か言わなかった?」
「さァな。言わせる前に斬ったからなァ」
「そっか。……相手、けっこう強そうだったのに、晋ちゃん強くなったのね」
本当に成長したんだ、と晋助を微笑ましく見つめると、晋助はばつの悪そうな顔をし、煙管をくわえた。憎まれたり恐れられることには慣れているが、今の自分にとって「褒められる」というのはなかなかない。それゆえにどう反応していいかわからないのが本音だったりする。
そして、顔を名無しさんのほうに向ける。
「アンタはどうしたいんだ」
「え?」
「……ククッ、本当にマイペースだな、まったく変わっちゃいねェ」
笑う晋助を見ながら、名無しさんはハッとした。そうだ。あの天人がいなくなった今、わたしはもう、
「元の時代に戻れないの……?」
「なんだ、戻りたかったのかィ。そいつァ無理な話だ、あのカラクリは既に俺が壊してある。二度と使えねーようにな」
「そ、そんなあ」
「しょうがねェだろう? あの天人共のように、悪どいことを企む輩がこの世にゃわんさかいんだ」
それから名無しさんを戻さない理由も含まれていたが、晋助は黙っていた。
何も知らない名無しさんは、半分なきべそをかきながら晋助を軽く睨んだ。
「それじゃあ、わたしは……」
万事屋に戻ることも考えた、だけど、居候の身で「またお世話になります」だなんて言えない。自分を保護してくれたおばさんも同様だ。
そうだ、これを機に、万事屋をでて近くの家に住もうか………。……駄目だ、まだこの世界には慣れてないし、銀ちゃんから「最近一人暮らし狙った犯罪多いよなー」という話を聞いて、正直恐い。
けれど、そんなわがままが通る立場でないこともわかっていた。
わたしは、どうしたらいいんだろう。
「わたしは……」
「……俺と一緒に来い、名無しさん」
「えっ」
驚いて顔をあげると、晋助の真剣な目と視線があった。
「前の俺には守るものなんざなかった。アンタもあの人……松陽先生もいなかったからだ。自分の無力さが嫌で、アンタ達を奪った世界が憎くて、壊すだけ壊してきた」
「………」
気のせいだろうか、彼の声が悲痛に感じる。同時に、酷い罪悪感がのしかかった。晋助と再会した時、どうしてこんなに変わったんだと失望した。けれどそれは違う。
自分の大切な人が、突然消えた時。人は、どう想い、どうするのだろうか。
名無しさんはじっと、晋助の話に耳を傾けた。
「だが、今は違う。アンタがここにいる。今度こそ、俺が守る。……それから派手に壊してやるさ。俺からアンタと先生を奪おうとし奪った、この世界をな」
「………」
晋ちゃん、そう呟いた名無しさんの目は澄んでいた。
「わたしも晋ちゃんと一緒にいたい」
「……」
「でも、その為に世界を滅茶苦茶にするのは嫌だよ、だからごめんね、」
「ふざけんじゃねェ」
両肩をつかまれ、そのまま力任せに押し倒された。慌てた名無しさんは晋助を怒鳴りつけ、起きあがろうとする。しかしできずに、咄嗟に目の前の表情を見て、名無しさんは驚いた。
「……いつまで我慢するつもりだ、アンタは」
言葉にできない彼の表情と、晋助が気持ちを抑え込むあまり名無しさんの肩を掴む力が強くなり、名無しさんは眉をひそめた。
あの夢と同じだ。
「なぜだ……。なぜ、アンタも銀時もヅラもそうジッとしてられんだ」
あの人は奪われたんだ。なんで仇を討とうと思わねーんだ。
言外で目からそう訴えられていることをひしひしと感じた名無しさんは、しかし悲しそうにかぶりを振った。