TWO!
□TWO!17
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気づけば自分はスーパーの出入り口である、自動ドアの前に立っていた。
空は今にも雨がふりそうなほど機嫌が悪い。そして手には晩ご飯の材料がつらつらと書かれているメモが握られている。
そうだ。そういえば私、ご飯の材料を買いに来たんだ。
そう思った直後、おろしていた片手を何かがきゅっと握ってきた。すぐに下を向くと、
「銀ちゃん…!」
二ヶ月前までは一緒にいた、昔の銀時。
どうしてここにいるのかとか、そんな疑惑はいっさいもたなかった。小さな銀時はいつも通りのだらけた顔で、名無しさんを見上げている。
そっちに気を取られていると、メモを握った手の袖口を引っ張られて今度は逆の方向を見おろす。
「ヅラちゃん」
こちらも幼い小太郎だ。生真面目に一本もおちることなくくくられた高めの一本結びに、懐かしさがこみあげてくる。何も話さず、同時に袖をぎゅっと強く握りしめる。ただしその目は、自動ドアを見ていた。
その時、目の前の自動ドアが開いた。
そしていたのは、二人と同様幼い、晋助だった。店内には誰も見あたらず、ただ無言で彼はうつむいていた。
「晋ちゃん」
嬉しそうに声をかけても、晋助は顔をあげなかった。いつも自分のまわりをうろちょろとして、楽しそうにしていたのに、目の前の晋助はまったくの無反応。
不安になった。
手をのばそうとするが、銀時も小太郎も、それぞれの小さな手からそれを離そうとしない。
それどころか、まるで行かせまいとしてますます強くつかんだ。
「お願い、離して? 銀ちゃん、ヅラちゃん、ね、良い子だから」
「………」
真一文字に口を結ぶ二人は、名無しさんの言うことを聞かない。銀時は小太郎と同じく、晋助を睨み付けるようにしている。
その様子に名無しさんは困ったが、気を取り直し再度晋助に声をかける。
「晋ちゃん、どうしたの? おいで、私だよ、名無しさんだよ」
しかし、向こうは動く様子はなかった。聞こえてないわけがない、自動ドアをはさんでいるとはいえ、自分が大股で二歩進めば触れることのできる距離だ。
あの子の、だらんと下げられた手を握りたい。頬に手をそえて顔を上に向かせたい。でも、それが敵わないのだ。両隣の子供が、そうさせない。
そうこうするうちに、自動ドアが再び動き出した。ゆっくりと、閉じようとしている。
晋助と自分の間に、壁となって。
大江戸スーパーの自動ドアは、透明なはずだったのに、目の前のそれは違う。真っ黒にぬりつぶされ、それに気づいた瞬間ここがスーパーではなく、何か真っ黒な空間だということがわかった。
果てのない闇に、なぜかはっきりと見える自分と、まだ離れない二人の子供。そして目の前の晋助。
しかし、その晋助はドアにより、闇にとけこんでいった。
「ま、まって! 晋ちゃん、晋ちゃん!!」
慌てて足を一歩踏み出したのと、自動ドアがあと数センチで閉じるという瞬間が重なった時。
今まであがらなかった顔が、ゆっくりと上がった。
見開く目に映った、あの子の、晋助の表情は、
「晋、ちゃん………」