巡礼

□富山〜磯部の堤にて
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2.


上杉景虎の魂の終わりが近づいている。

それを受け止めた後の彼はひたすら突き進む一方、
わずかなふたりだけの時間のなかでよく昔話をした。

『あそこが、オレたちの最初の分かれ道だったな』



ちょうどこの木の下。
地面に膝をつき、成政の骸[ムクロ]を抱きかかえ涙を流した高耶……。

あの時、愛する者の手に己の命をゆだねた成政に。
景虎の腕に抱かれ看取られて逝った成政に。
あれが自分だったら……、と羨望を抱いた。
理想の最期だと思った。
そんな自分に高耶は、

『おまえは、死ぬなよ』
『おまえはこんなふうになるなよ』
『おまえは、だれにも、殺されるな……』

どうしようもなく愛おしくてならなかった。
制することが、できなくて、

(新しく築き始めたはずの関係を、俺が、壊した――)



このことは、ずっと直江の奥底に後悔として沈んでいた。
だが、高耶は言ったのだ。

『後悔? そんなもんする必要はない』

ゆるぎない瞳で。

『たしかに、おまえがあのままただの保護者でただの後見人だったなら。
 もしくはオレが、オレの感情や思考を閉ざしておまえを受け入れていたなら。
 あそこでオレたちの“優しい関係”は壊れなかっただろう。

 けど、それはオレたちの在り方じゃない。“偽り”だ。違うか? 直江。
 ――壊れて終わったわけじゃない。
 通らなければならない大事な“通過点”だった。

 だから、後悔なんかしなくていい』






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