other…

□金木犀
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【甘めver.】


「わりぃ、直江。気ぃつかわせちまって。――大丈夫だ」

「高耶さん」

「なんかこの空気吸ったらイイ感じに力抜けた。大丈夫。
 なあ、ところでなに食わしてくれ―――おいッ!」

つらいくせに……それでも笑顔を見せ元気を装う高耶を。
直江は、たまらずその腕に抱きしめていた。

「ばっ、オイ直江ふざけんな!」

誰かに見られたらどーすんだよ!
離せよコラ!
おい聞いてんのかコラ!

いつもの彼らしく悪態をつく高耶を抱きしめたまま、
直江はその耳元にささやいた。

「……ちょっと、嫉妬しました」

「はぁ? なにに」

「金木犀に」

「なんで」

「あなたが、私ではなく金木犀に癒されたそうなので」

「………」

そんなコトを言われても、だ。
高耶は面(おもて)を上げ、まじまじと直江の顔を眺めた。言葉が出ない。
かまわず直江は続ける。

「高耶さん、知ってます? 金木犀の花言葉」

「しらない」

「“あなたの気をひく”」

「―――で?」

「言葉通りですねぇ。私は金木犀に負けたんですよ」

「………」

まったくこの男ときたら本気なのかふざけているのか。
歎く直江の腕をふりほどき、高耶は「はあー…」と大きなため息をついた。
そして直江のスーツの襟をグイとつかみ顔を寄せると、

「直江」

「はい?」

「一度しか言わねーからよく聞いとけ」

暗がりのなか、その目でまっすぐに直江をとらえた。

「キンモクセイもイイけどおまえのほうがイイに決まってんだろ。
 つーかおまえと比べられるモンなんかねぇ。わかったな?
 わかったらさっさとメシ行くぞッ!」

言い切った勢いのままにぐるんと背を向け、高耶はズンズン歩きだす。
遠ざかる愛しい背中。

「あ、え、高耶さんっ」

慌てて追いかける。

いまのは幻聴だろうか。
とんでもない殺し文句をさらりと言われたような気がするのだが――…

横に並んだ。
のぞきこむ。

「高耶さん、あの、すみませんもう一度、」

「言うか、ばーか」

「高耶さんっ」

「言わん!」




どこからともなく漂う秋の甘い空気が。
そんなふたりを優しく包んでいた。


END


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