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□赤い月夜に生まれし者
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1.
や……めろ…ッ、
はな…せ、あ…あ…、
アアアアァ―――…!!!
闇をもつんざくような悲鳴をほとばしらせ。
彼はそこで目を覚まし跳ね起きた。
ひどく呼吸が荒く、ふきだす汗で夜着も髪も肌に張りつくほどに濡れている。
「――景虎殿」
うなされる様を、腕を懐手に戸板にもたれじっと眺めていた安田長秀は、
そこでようやっと声をかけた。
「大丈夫か」
「………安、田…」
はぁ…はぁ…と浅い呼吸を繰り返しながら、
「ああ…」
景虎はわずかにうなずいた。
長秀は瓶から水を汲んでくると、柄杓[ヒシャク]のまま景虎の目の前に差し出した。
「飲まれよ」
「……すまぬ」
言って受けとると、景虎は喉を鳴らして一気に飲み干した。
ぐいと口を拭う。
一心地ついたというように大きく息を吐き出したところで、
長秀はもうひとたび問うた。
「大丈夫か」
「……大丈夫だ。なんでもない」
景虎は同じ答え[イラエ]をよこしたが、あのうなされよう、
(なんでもないはずがなかろう)
尋常ではない暴れ様だった。
あごをのけ反らせ思いきり首を左右に振り、
なにかを押しのけるように腕を突っ張り掻きむしる仕草。
脚はがむしゃらに上掛けを蹴り剥がしていた。
そういえば……、
「景虎殿」
「?」
「貴殿、月の夜にうなされることが多くはないか。
ことに――今宵のような赤い月の晩は」
「!」
その言[ゲン]に景虎がびくっと身を震わせた。どうやら的を射たらしい。
まだ整わぬ呼吸に胸を上下させながら、
毛を逆立てた獣のごとくギラリと睨みつけてくる。
行灯に照らしだされるその表情――
(ほぅ…)
長秀が動いた。
文