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□もの言わぬ月の誘惑(現代編)
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『どうしました?あなたから電話をくれるなんて――』

ベッドに横になり、高耶は子機を耳にあてていた。

『なにかあったんですか?』

電話の向こうの少し慌てた声に、けだるげに答える。

「……なにもない」

『高耶さん?』

「月を見ていたら、……おまえの声がききたくなった…」

『……え?』

素っ頓狂な直江のリアクション。

「なんだよ、その声」

クスクス――
笑うが、おかしいのはきっと自分の方。
普段の自分ならまず言うことのない台詞(セリフ)だろうに。
たぶん、この微熱のせいだ、と高耶は思う。
人恋しくでもなったか……。

だるくて寝ていたら、なにものかの気配に目が覚めてしまった。
それは窓から差し込む月の光。
まっすぐに自分に伸びてくる光の筋が、なにかを思わせた。

直江だった。
直江の眼差し――

『嬉しいです。
 私も、ちょうどいま月を観ていたところですよ』

私たちは同じ月を観ていたんですね……。
そんな微笑を含んだ直江の言葉が耳をくすぐる。
高耶は潤む瞳でなおも月を見つめた。

優しくも、厳しくも――
甘くも、狂おしくも――

いつもそこにあって自分を見ている月。
おまえの、視線……。

「なおえ…」

『なんですか、高耶さん』

「おまえは、オレだけを見ていろ……」

あの月のように。
どこにいても、
離れていても、

「オレだけを――…」




『――御意』

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