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□もの言わぬ月の誘惑(現代編)
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橘家のベンツの運転席でひとり、直江は煙草をくゆらせていた。
長兄の所用に運転手としてかりだされ、ついさきほど帰宅したところだ。
ひとりになりたくて、兄の「飲みに行くか?」という誘いを断った。
その理由は――――月。
細く開けた窓から、紫煙が緩やかに外へ流れ出る。
たゆたうことなく昇ってはクリアな空気に消えゆくその先をさらにたどると、
視線は月と出会う。
今夜は満月。
しかも稀にみる鮮やかさに、直江は目を細めた。
(眩しいな…)
煌々と冴え渡る月の光。
黙していても、その輝きは隠しきれないのだろう。
そして時に、その輝きは向き合う者の本性をも暴きだすのだろう。
それはまるで――
「あなたのようですね。景虎様……」
あの瞳が思いだされる。
しばらく、こうして眺めていたかった。
しかし。
Turrrr...
その直江だけの世界に侵入者。
Turrrr...
携帯電話のディスプレイを見て驚いた。
煙草を揉み消す。
Turr――Pi.
「高耶さん?」
文