巡礼
□富山〜磯部の堤にて
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1.
魚津の様子を見に向かう途中、直江は富山市内へ寄っていくことにした。
景虎――仰木高耶が、「また行きたい」と話していたのを覚えていたから。
直江は護国神社裏手の車道脇へ車を停めた。
すぐそばに土手へあがる階段がある。
キーを抜き降り立つと、まず感じる緑の匂い。
青空がまぶしい。
片手をかざし土手を見上げた。みごとな桜木が立ち並ぶ。
花の季節はとうに過ぎてしまったが、
いまはみずみずしい青葉が生い繁り、青い空によく映えていた。
階段を昇りきったすぐそこが、直江(と高耶)の目的の場所だった。
“一本榎”
「磯部の堤」といわれるこの堤防の桜並木の中ほどにある榎の木で、
正確にはその種から育った樹齢数十年の二代目だ。
戦国の乱世――
富山城主・佐々成政と側室・早百合の悲劇の舞台となった木の子孫であり、
数年前――
闇戦国のはざまで再会したふたりの結末を見届けた木。
(早百合……成政……)
その下にたたずみ、直江はひとり黙祷[モクトウ]を捧げた。
さわやかな風と軽やかな葉音。ここに、かつての念や邪気はカケラもない。
瞑目をとくと、直江はそっと微笑した。
(高耶さん、安心してください)
いまここにあるのは、清浄な大気だけですよ――。
早百合に触発されて集まった霊たちが地縛されていないか。
高耶はそれを気にかけていた。しかし、どうやらそんな心配はなさそうだった。
そしてもうひとつ、高耶がここを訪れたがった理由がある。それは、
『大事な通過点だったから』――。
文