ANNIVERSARY
□2007/08 高耶さんBirthday
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1.7月22日・夜
宇都宮――橘家。
久しぶりの実家での夕食のあとだった。
膳をさげながら、そうそう、と思い出したように母親が口を開いた。
「義明さん、明日のご法事は一日がかりになりますからね」
「え?」
母親の言葉に「義明さん」こと直江は思わず声をあげた。
聞き返す。
「なぜですか?
たしか、明日は昼で終わるはずではなかったのですか?」
そうでないと困る。
明日は非常に困る。
法要は、本来なら寺を継ぐ次兄のつとめのはずなのだが
その日は兄嫁の実家へ夫婦で行くということがすでに予定されていたらしく、
ならば「昼には終わるということならじゃあ私が」と承諾したのだ。
それなのに――
三男の言葉とわずかに眉根の寄った表情から不満を感じ取ったのだろう。
母親は申し訳なさそうに言った。
「もう1件夕方に入っているお宅がね、
ご住職だけでなくぜひ義明さんも、てあなたにも来てほしいのですって。
ついさっきお電話があったのよ。……三丁目の××さん」
「―――」
母親の口にしたその家は、
数多い光厳寺の檀家のなかでもかなり古くからつながりのある家だった。
ここの家長夫婦には直江も幼いころから世話になっていて、
夫人にはいまでもあれやこれやと心配をかけている。
どうやら明日は、数年前に他界したご主人の供養も入っていたようだ。
それでは、無下に断ることもできない。
直江は母親に気づかれないよう気をつけながらそっとひとつため息をつき、
「わかりました」
そう、答えていた。
◇
「――ということなんです。すみません、高耶さん……」
『――いや。わかった』
離れの自室。
直江はまっさきに松本の高耶へと電話をかけていた。
『そーゆうことならしょーがねぇじゃん、気にすんなよ』
と高耶は言うが、明日は高耶の誕生日なのだ。
昼までに用事が済めば夕方には松本へ着く。
だから「お祝いになんでも好きなものをごちそうしますよ」と
自分から食事へ誘っていたというのに……
やっぱり行けなくなった、では直江の気が済まない。
「早く片付きましたらそちらへ向かいますので」
『いいって。
オレなんかより家の仕事のほう優先しろよ』
たまには親孝行しろ、この放蕩坊主が。
耳元で高耶が笑う。
痛いところを突かれてしまった。
これには直江も思わず苦笑をもらすしかなく、
「本当に、すみません」
もう一度言って、電話を切った。
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