ANNIVERSARY

□2005/07 高耶さんBirthday(前編)
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「ね、高耶。どっかで誕生日のお祝いしようよ、お祝い」

「げっ、いーよそんなん」

「え? 仰木くんてば今日誕生日なの? やっだ、おめでとー」

「ほお、いくつになったんだ? ジュウシチ? はっ、まだまだガキだな」

「うるせえ! ジュウクのくせに無免許がっ……て、おい、アレ」





夏休み、である。
ぎゃいぎゃいとにぎやかに校舎から出てきた仰木高耶、成田譲、森野紗織、
そして“座敷わらし”千秋修平、という城北高校2−3の面々は、
校門を出たところでそろって足をとめた。
すぐ横に、見覚えのある宇都宮ナンバーのセフィーロが……。
そして運転席の扉が開き、

「お誕生日、おめでとうございます、高耶さん」

降り立ったのは、この暑さにもかかわらず黒いスーツ姿の男。
その腕には花束まで抱えている。
向けられた極上の笑みと声音……。

(もうこれだけでどんな女もオチルんだろうよ)

と少々呆れながら(現に紗織なんぞは「ひ〜〜っ」と声にならない悲鳴をあげ
いまにもとろけそうだ)、高耶はその男の名を呼んだ。

「直江……」



こんにちは、譲さん、お嬢さん、おまえもいたのか長秀、とひと通り声をかけ、
「お約束どおり参上いたしました」と花を差し出す直江信綱。
高耶は驚きを隠せない。
数日前、

“もうすぐ誕生日だそうですね。
 近いうちにお祝いにうかがいますので、待っていてください。じゃ”

という一方的な電話がかかってはきたけれど、

「マジで来るとはおもわねーだろが。びっくりだぞ」

その言葉に直江は心外そうな顔をした。

「おや、私は有言実行する男ですよ。それより私の方こそ驚きましたよ。
 家へうかがったら美弥さんに『おにいちゃんは学校です』と言われまして。
 ……あなた、そんなに学校お好きでしたっけ」

「うっ」

なんて嫌なやつ。思わず言葉につまってしまう高耶である。
その隙に、さらに嫌なやつがしゃしゃり出てきた。もちろん千秋だ。

「直江直江、ホシュウだよ、ホ・シュ・ウ」

「補習?」

「そ。うちの大将は“おつむ”の出来がすこぶるよろしいみたいでなあ。
 あ、ちなみに俺はただのヒヤカシ。成田と森野さんは部活、だよな」

そうです、とうなずくふたり。

「う〜〜、悪かったなあ! どーせオレは落ちこぼれだよ」

ぷん、と拗ねる高耶を直江は「まあまあ」となだめ、再度花束をかかげた。

「勉強ができなくても、あなたにはあなたにしかない美点がたくさんありますよ。
 ……受け取っていただけませんか?」

あまりフォローになってないぞと思いつつ、

「……さんきゅ」

両手で受け取った。

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