ANNIVERSARY

□2005/03 ホワイトデー
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「さーって、メシだメシだ!」

なに食うかな〜、と鼻歌まじりに食堂にやってきた武藤潮は、
配膳口の人だかりを見て一瞬足を止めた。

(お? なんか……)

前にも見たことがある光景――ああ、ひと月前のバレンタインデー、
「野郎どもに取り囲まれる仰木高耶の図」だ。
近寄ってみると、遮毒眼鏡になぜか白衣着用の高耶と、
エプロン姿の卯太郎がせっせと小鉢を配っている。
食事当番でもない彼らがなぜ。

「おーい、おまえら何やってんだ?」

ひょいと人垣から顔をだすと、卯太郎が汗をかきかき興奮ぎみにこちらを見た。

「あ、武藤さん! すごいんですよ、仰木さんが作ってくれたがです!」

「仰木が?」

はい! これをどーぞ、と差し出された小鉢に盛られていたのは、
家庭料理の代表格「肉じゃが」。

「え! うっそマジっ!? コレ仰木が作ったの?」

なんでまた……。驚く潮に高耶は、

「こないだの礼、つーか詫び、つーか……な」

と言ってテレたように眼を伏せた。
そうか、今日は3月14日――ホワイトデーだ。お返しというわけか。
しかも仰木高耶の手料理では、皆がこぞってむらがるハズだ。

「すっげー。プレミアもん」

じゃ、さっそくいただくかな〜、と空いた席を捜していると、

「武藤さん、一緒にいかがですか?」

少し離れたとこから中川の誘いの声。
同じテーブルに兵頭もいるのがなんとなくイヤだったが、およばれすることにした。
絶品ですよ、と舌鼓をうっている中川と、
その向かいでちらりとこちらを一瞥したきり、黙々と箸をはこぶ兵頭。
潮は中川の隣に腰をおろした。ぱん、と合掌し、

「いただきます!」

まずひとくち。
――お? 目をみはった。

「うまいっ!」

うぉー、ちょーうめ〜〜っ! 激うま!
叫びながら、潮は子供のように足をばたばたさせる。そこへ、

「武藤、おおげさ」

いつのまにやら高耶がやってきていた。あとのことは卯太郎に任せたらしい。

「いや、マジでウマイって!
 このくずれる寸前のほくほく感とか、この味とか、最っ高〜!」

感激した様子でまくしたてたあと、しかし潮はふと黙った。
箸の先をぴしっと高耶に向け、問う。

「なあ、なんで白衣なんだ?」

「え? いや……」

思わぬツッコミに高耶は少し慌てた。

「それがですね」

聞いて下さい武藤さん、と中川がすかさず口を挟む。身を乗り出し、

「最初は割烹着を用意したんですが、こんなん着れっか! と強く拒否されまして。
 ……仕方なく白衣を代用に」

「割烹着〜!?」

ぎゃははは、と潮は大笑いだ。
「仰木隊長」に割烹着とは、えらいミスマッチな……いや逆に似合いすぎか?
高耶は顔を真っ赤にし、ドンとテーブルをひと叩きした。

「軍議開始は8時! 遅れるなよ」

オレは先に行く! と高耶は身をひるがえした。
その背中に「隊長」と呼びかけたのは兵頭。肩ごしに振り返った高耶に、

「ごちそうさまでした。うまかったです。
 ……酒とも合いそうですね。甘さがちょうどいい」

その言葉に、高耶は少し驚いた表情をした。
瞳を揺らす。
なにか悪いことを言っただろうか、と兵頭は高耶の顔を注意深くうかがい見た。
やがて高耶は、あいつも同じこと言ってたな、とぽつりつぶやき微笑した。

「サンキュー」

その顔が切なげに見えたのは、気のせいだろうか。
お先、と今度こそ高耶は歩きだした。


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