ANNIVERSARY

□2005/02 バレンタインデー(後編)
1ページ/2ページ


連れていかれた場所は、
「赤鯨衆特別遊撃隊隊長 仰木高耶」にあてられた部屋――つまり自室だった。
室内に放られようやく解放された高耶は、

「なんのマネだ」

鋭く男をねめつけた。
橘――いや直江は悪びれたふうもなく肩をすくめると、
後ろ手にゆっくりと鍵をかけた。

「あなたとふたりきりになりたかったんです」

「だからって今みたいな連れ去り方はいただけないな。不審をまねく」

言いながら高耶は荒い歩調で奥へ進み、デスクの上にそっと箱を置いて振り向いた。

「はい上がってこい、と言ったはずだ、直江」

この自分のかたわらにおまえの姿があって当然であるように、
一隊士からココまで――。
今はまだその時期じゃない。
高耶は怒りをこめて直江を見つめた。
視線をあわせたまま、直江はゆっくりとあゆみを進める。

「……あなたとふたりきりになりたかった。今日は。どうしても」

「だからって」

「チャンスだったんです」

デスクをまわりこみ、

「今日という日に、あの幹部たちがそろって出払っているなんて、
 ……天の情けでしょう」

高耶のもとへたどり着く。怒ったままの顔を両手で包みこんだ。

「残っている者たちは、中川がうまくなだめてくれているはずです」

だいじょうぶ……。
そう囁かれてやっと、高耶のからだから力が抜けた。直江の腕をおろし、

「おまえってやつは……」

むちゃするなよ、とため息をつく。
それを見て直江は、苦笑しつつ白状した。

「本当は、中川があなたをよびにいく予定だったのですが。
 その箱を大事そうに抱え、あの者たちに囲まれているあなたを目にしたら……
 仰木高耶はオレだけのひとだ、と叫んでしまいそうだったので、
 ……思わずとびだしてしまいました」

「なっ……」

高耶は絶句して、ぷいと横を向いた。
その視線の先に、卯太郎がくれたケーキの箱。
そっとふたを開ける。

「卯太郎のやつ、あいつみたいだったな……」

「あいつ?」

「……美弥」

愛しい妹――。

「毎年作ってくれたんだけど、あいつさ、すげえ不器用なんだよ。
 いつもダマになってたり焦がしたり、カタチもいびつだったり……。
 でも、わざわざラッピングまでしてさ、こんなアニキなんかにくれるんだ。
 受け取らないと承知しない、って顔してさ。
 今年も……用意して待ってんのかな」

言ってこちらを向いた高耶は、いまにも泣き出しそうな顔をしている。
たまらなくなって、直江は高耶を抱きよせた。
高耶がどんなに妹を大事に思っているか知っている直江だ。
ずっと心配をかけていることで、自分自身を責めていることも知っている。

「高耶さん……」

抱きしめる腕に力をこめた。
少しして、「あとで一緒に食べよう、卯太郎はおまえにもなついてるから」
と高耶は顔をあげて笑った。
ええ。でもその前に、と。
直江は胸ポケットから小さなケースを取りだした。

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ