蜜/室
□QUEEN...
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「無様だな、直江信綱」
向かいのソファーに座った直江の、左肩から腕にかけて巻かれた白い包帯。
ちらりと見遣って、高耶は不遜[フソン]げにそう言った。
この負傷が、自分を守り、かすり傷ひとつ負わせなかったのを承知のうえで。
そんな怒気を含んだ高耶の視線を、直江は沈黙と無表情で受け止めている。
高耶は小さく鼻を鳴らすと、組んでいた脚を解いてゆっくりと立ち上がった。
じっと見据えながらテーブルを周り、真正面に立つ。
「………」
「………」
男の両足を跨ぐようにしてソファーへ膝をかけた。
軋[キシ]む音。
あごをあげたまま、視線だけを伏せポーカーフェイスを見下ろす。
手が、おもむろに包帯を剥いでゆく。
そうしている間もこの男は、何を考えているのかされるがままだ。
やがて、まだ塞がりきっていない生々しい傷が露[アラワ]になった。
「馬鹿が」
吐き捨て、その傷を立てた爪で引っかいた。
直江はわずかに眉を寄せた。
血が、にじむ。
「あんな低級なモノにやられやがって……」
押し殺した声で言って傷口に唇を寄せると、
高耶は赤い舌先をちろりとのぞかせ、その血を舐め取った。
「っ、」
直江の口から微かな呻き。
しかしそれにかまうことなく髪に指を差し入れ直江の頭を挟みこむと、
触れるギリギリまで顔を近づけささやいた。
「言っただろう、直江」
スゥー…と細めた目の奥で。
瞳が昏い輝きを宿す。
「おまえは、血の一滴までオレのもの……
勝手に、その血を流すことは許さない――」
「………」
勝手なのはどっちだろう。
見つめ返しながら、直江はやっと言葉を発した。
「私を、挑発するのが上手くなりましたね、高耶さん。
――もしかして、誘って…るんですか……?」
そんな瞳[メ]をして、そんな言葉で、こんな体勢で……
膝立ちで直江に跨がるバスローブの裾からはしなやかな素足が伸び、
はだけそうな袷[アワセ]からは滑らかな胸がのぞいていた。
しかし高耶はせせら笑い、さらに煽る。
「その腕で、おまえになにができる? ――ん?」
「高耶さん……」
直江の仮面が剥がれた。
くつくつと、さも愉しそうに喉の奥で笑ったかと思うと、
「腕は、もう一本あるんですよ――」
低くかすれた声で。
言って、笑みを消した。
瞳に映る情欲の炎。
直江の右手が動いた。
高耶の腰を素早く引き寄せ抱きしめると、
ローブの内から直[ジカ]に腿の裏側を撫であげる。
あ、と小さくもらしたくちびるを下からとらえた。
「んッ……」
激しく深く舌を絡めむさぼりながら、直江の手は秘部へと這っていく。
いつもよりもダイレクトに性急に。
「もう欲しがってるでしょう……ケイレンしてますよ」
ココ――と、指がソコへ触れ侵入しようとした瞬間。
「つッ……」
直江の口のなかに血の味が広がった。――噛み切られた。
潤んだ瞳が上からねめつけてくる。
血と唾液で濡れたくちびるが動く。
「直江」
「……」
「オレを抱きたければ…………その怪我を一秒も早く治せ」
「高耶さ――」
「命令だ」
「!」
その絶対的な口調と視線に射抜かれた。
呼吸[イキ]が――とまる。
身じろぎひとつできずにいると、
高耶は直江の上から降り鮮やかに身をひるがえした。
そのまま隣のベッドルームへと姿は消え。
ガチャン――と、
鍵をかける無情な音だけが耳に届いた。
文