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□金木犀
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※蜃気楼的日誌No.16に関連SSあり
夕闇せまるころ。
「あ」
車から降り立つとふと、高耶が声を漏らした。
そうしてなにやらきょろきょろとあたりを見回す。
「どうしましたか?」
と、運転席からまわり込み問う直江に高耶は言った。
「キンモクセイの匂いしね?」
「金木犀…?」
――、言われてみれば。
かすかだが、吸い込む空気に独特の甘い芳香が感じられる。
「もう、そんな時期なんですね」
つい最近まで夏かと思われるほどの陽気だったというのに、
いつの間にやら季節は移ろっているらしい。
大気に溶ける香りを深く吸い込んでみると、
「あー、いー匂い」
高耶も両腕を大きく伸ばし深呼吸をしていた。
「オレ、この匂いけっこう好きなんだ」
そう言う高耶の表情がとても柔らかいものだったので、直江は思わず微笑した。
そんな気配に気づいたのか、高耶がこちらを見る。
「なに」
「いえ」
「気になる」
「――今日は、おつかれさまでした」
「……」
直江の言葉に、高耶はゆっくりと手をおろしうつむいた。
うつむいたまま、
「わりぃ……」
小さくつぶやいた。
◇
今日のシゴトは少々後味の悪い結末となってしまった。
《力》の行使に一瞬の迷いが生じなければ、すべてうまくいったはずなのに――。
結果、車中でもずっとふさぎ込んでいた高耶だ。
あなたが責任を感じることはないんですよ、と言われても慰めにはならなかった。
ときおり隣からなにか言いたげな視線を感じはしたが高耶は沈黙を守り続け、
直江も、それ以上はなにも言わず黙々と車を走らせていた。
どのくらい経ったころか。
「ここらへんで食事にしましょうか。近くにうまい店があるんですよ」
そう言われて車を降りて、やっと、口を開いたのだった。
【甘めver.】
【切なめver.】
文