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□オレンジの月見る静かな夜に
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「直江、無理して付き合うことないんだぞ」

さきほどから感じる視線に、高耶は静かにそう声をかけた。
するとかたわらでベランダの手すりに背を預け
こちらを見ていた直江はいいえ、と首を振り、

「夜空を見上げるあなたを眺めているのが好きなんです」

だからお気になさらずに、と微笑する。
高耶は一瞬何を言われたのかわからない顔つきだったが、
その直後、うっすら顔を紅潮させ、

「…好きにしろ」

ぷいと前を向いた。
そんな高耶の「照れ笑い」ならぬ「照れ怒り」には慣れている。

「はい」

直江はくすりと笑いをもらすと、
高耶と同じように今度は手すりに腕を預け前を向いた。







夜の喧騒も過ぎ、眼下の灯りも、通りを走る車の音もまばらな時刻。

――――静かだ。

自然、話す声はひそやかになる。

「そういえば久しぶりですね」

「ん…?」

「空が見えるの」

「そうだな……」

直江の言う通りだった。
梅雨の晴れ間というやつか、今夜は雲が少なく、
幾日ぶりかで空に星が見える。月が見える。
もう2、3日もすれば満月という、まあるく満ちゆく月――。

気温がやや高く大気が湿気を含んでいるため、
今夜の月は輪郭が淡く、オレンジがかった暖かく優しい色をしていた。
そしてそれを見つめる高耶の横顔もまた、あの月のようだった。
傷付いた野生の獣が自然の命に身を癒されているかのような――

「………」

「……なんだよ」

いつしかまた高耶を見つめていたらしく、気付いた高耶がこちらをにらむ。

「いえ、あなたが穏やかだなあと思って」

正直に思った通りのことをくちにすると、
高耶はさらに「オレが穏やかじゃ悪いかよ」と顔をしかめた。

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