other…

□For you...
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ベランダで秋の夜風に吹かれながら月を眺めていると。

「またあなたは……」

背後から、苦笑混じりの静かな男の声。
振り返ろうとしたら、ガウンが肩へかけられふわりと抱きしめられた。

「とめたりしませんから、せめて温かくして外へ出てください、高耶さん」

もう何回言われたともしれぬその言葉。
高耶はバツが悪そうに「わりぃ」と小さく答え、肩をすくめた。





 そうして
 ふたりで眺める月――





おもむろに、高耶が空(くう)へ両腕を差しだした。

「高耶さん?」

「なんか届きそうな気ぃしねえ?」

高耶は月へ向かってその両腕を伸ばしていた。

ここは超高層マンションの最上階。
漆黒の天幕にぽっかりと浮かぶ今夜の月は、いやにくっきりと大きく、近く感じる。

「つかめそうなんだけどな……」

そうつぶやいて身を乗りだす高耶を危ないですよと自分の胸へ引き戻すと、
直江は自分の両腕を高耶の両腕へ添えた。
そのまま手をとらえ、指をからめる。

耳元へささやく。
謀(はかりごと)を吹き込むように。

「――あの月がほしいですか?」

「え?」

「あなたに、あの月をあげましょうか……」

「なに言ってんだよ」

んなコトできるわけねーじゃん。
くすっと笑う高耶に、しかし直江も笑みを返した。
そしてつかんでいた高耶の指で、四角い枠をつくった。
両手の親指と人差し指をL字に広げ逆さに組んだ、写真のフレームのような四角い枠。
そのなかには、フォーカスロックされた月――

直江は言う。

「ほら……月はあなたの手のなかに」

「……」

「これであの月は、あなたのものですよ」


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