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□彼岸花
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「どうしました?高耶さん」

突然立ち止まってしまった高耶を、
直江は数歩進んだところで歩みを止め振り返った。
彼岸花が紅く群れなす土手道。
高耶はどことなく悲しそうな苦しそうな表情で直江を見つめている。

「高耶さん?」

「おまえ……」

「はい…?」

なにか言いたそうな高耶だったが、彼は言葉を飲み込むように口を閉じると
「いや、なんでも」と首を振るだけ。しかし動こうともしない。
直江は困ったように微笑すると、高耶のもとまで戻ってきた。

「ここで止まってしまっては、悲しい思い出につかまってしまいますよ?」

「え?」

直江は静かな眼差しを高耶へ向ける。

「彼岸花の花言葉のひとつです。――“悲しい思い出”」

「“悲しい思い出”……?」

ええ、と直江は花の群れを見やり、

「由来はわかりませんが。――この花たちのひとつひとつも、
 誰かの“悲しい思い出”なのかもしれませんね……」

だからだろうか。
この花は、鮮やかな赤色をしているのにどことなく悲しく、せつない。
その花の群れに直江の背中があまりに馴染みすぎて見えて、高耶は動けなかったのだ。
直江が、自分の知っている直江ではないようで――。
そう感じて、ふと思った。

(オレの知っている直江――?。
 オレは、こいつのことをどのくらいわかってる……?)

一面の花たちを、目を細めながら見つめる直江の横顔。
手の届く距離にいるのに遠く感じるのはなぜだ。

「――おまえにも、悲しい思い出が、あるのか……?」

おもわず口をついて出た高耶の問いに直江は、

「それは……まあ、400年生きてますからねえ」

「………」

「でも、あなたは知らなくていいことですよ、高耶さん」

気にしないでください、直江はそう言って申し訳なさそうに微笑んだが。
拒まれた気がして、高耶は不安になる。

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