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□月に想う
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AM 1:00
赤鯨衆――ある幹部部屋の一室で……
□
……………。
ベランダの手すりにもたれ夜空を仰いでいると。
「!」
突然、何者かに後ろから抱きすくめられ片手で目を覆われた。
「誰だ…ッ」
部屋主の鋭い誰何(すいか)の声。
侵入者は忍び笑い、
「鍵もかけずに不用心ですよ、……仰木隊長」
「――!」
息をつめた。
その声、この匂い――知るはひとりだけ。
仰木高耶はその男の名を呼んだ。「橘」ではなく、
「直江」――――と。
声音に動揺を感じ取った直江は、呆れたように苦笑した。
「私の気配に気づきませんでしたか? 高耶さん」
「――ああ…」
不覚にも。まったく。こんな拘束をされるまで。
すると「つれないですね」とうなじにくちづけが落とされた。
「っ…」
そのまま、歯をたてられた。
どうやらこの男は怒っているらしい。
「直江」
とにかく手を退けろ、ともがくと、
めかくしを外されないままさらに頭を引き寄せられた。
あおのく首筋。
耳元に囁き。
「眠れなくて……歩きに出ていたらあなたの姿が見えました」
「………」
「空を見上げるあなたに見とれていました」
「………」
「けれど……だんだんあなたを独占しているこの夜が憎らしくなって、
あなたに……どうしても会いたくなって、」
こうして忍んできてしまいました――。
めかくしが取られ視界が戻る。
高耶は首をめぐらせ、傍若無人なこの一隊士へ「ばかやろう」と小さくつぶやいた。
文