other…

□視/線
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  カチャ…



背後の扉の開く音がして、高耶は顔をあげた。
水を滴らせたまま、鏡に映る男に問う。

「どこに行っていた」

昨夜から、この滞在先のホテルに戻らなかった直江だ。
直江も、鏡のなかの高耶に答える。

「女を、抱いていました」

「………」

感情のこもっていない口調。
高耶は目を伏せた。
タオルで顔を拭いながら、こちらも感情を見せない口調で言う。

「シャワー浴びとけ。そのニオイ、甘ったるくて気持ち悪い」

すると直江は、クッ、と笑い、

「あなたは、女のニオイが嫌いですか?」

高耶が不快感をあらわにした。目線を上げる。

「そうじゃない。その、香水だかの甘いニオイが、気にくわないだけだ」

直江はこの甘さがチープでいいのに、と肩をすくめ、歩を進めた。
もろ肌を脱いでいた高耶は、浴衣に袖を通し前をあわせた。
直江は高耶のすぐ後ろに立つと、鏡の高耶を見つめたまま、耳元に囁いた。

「どんなコトをしてきたか、教えましょうか……?」

「――っ」

耳にかかる、卑猥さを含んだ声と鼻孔を犯す甘い甘いニオイ。
ダイレクトな嫌悪に、高耶は眉をひそめた。

「知りたくない」

「本当に?」

「直江」

咎めるような声を無視して、直江は背後から高耶を束縛した。
高耶は一瞬身をこわばらせたが、これといった抵抗は見せない。
少し、鏡越しの視線が険しさを含んだけれど、それは瑣末(サマツ)なこと。

「自分の欲求に、正直な女でしたよ。――彼女は、ココが、弱かった」

言って直江は、高耶の耳の後ろのくぼみに舌を差し入れた。

  ビクン

直江の腕のなかで、高耶の身体が跳ねた。と同時にギュ、と目をつむる。
そんな高耶の反応に、直江は喉の奥で笑った。

「あなたも、ですね」

「………」

「首が細かった」

片手を、仰のかせた顎から喉元へと滑らせる。

「ラインがきれいでした」

指先が鎖骨をなぞる。
高耶はされるがまま、鏡に映しだされる行為を見ていたが。

「特に感じやすかったのは、」

「直江っ」

鎖骨から滑り落ちてきた手が袷(アワセ)から侵入してきたところで、小さく叫んだ。
直江の腕をつかみ制止する手が、かすかに震えていた。

「やめろ…」

胸が大きく上下している。

「私が……こわいんですか?」

「こわくなんか」

「じゃあ、――興奮、したんですか……?」

「っ――」

サッ、と高耶の顔に朱がさした。

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