sweets high

□図書室
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しんとした空気と独特の匂い。
クラピカがこの学校に入学して来るまで図書室なんて好きじゃなかった、けど。


「…クラピカ?」
どこだろう。
カウンターを覗いても、中に人の気配はない。
本の片付けでもしてるのかな。


試験期間が過ぎたばかりだからか、閉館間際の図書室には他の生徒も全然いなくて、俺はきょろきょろと気配を探りながら足を進めた。


そして。


いつもの窓際の席。
俺が初めてクラピカに声をかけて数学を教えて貰った席。

そこで小さく丸まるようにして眠っているクラピカを見つけた。
机の上に流れた金色の髪がきらきらしてる。

いつもは背筋をぴんと伸ばして、思わず見惚れるくらいの姿勢で本を読んでるクラピカが。
今はただ静かに夕日に照らされながら眠ってる。

どうしよう。
疲れてるのかな。
でももうすぐ下校時刻になっちゃうし。
放っておくわけにもいかないし。
起こしてもいいかな。
ぴかぴかの髪に触っても。
そっとクラピカに近づこうとして。


「起こさないで」


不意に背後から声をかけられて、飛び上がるほどに驚いた。
慌てて振り返ると、右手に難しそうな本を抱えたクラピカの担任―クロロ先生が立っていて。
クラピカのことを何だかこう、何て言うのかな。
宝物でも見るみたいな目をして眺めていた。

どこにいたんだろう。
誰もいないと思ったのに。

「もう閉館だけど、返却?」

クラピカを起こさないように気遣う静かな声。
本当はクラピカに直接ありがとうって返したかったのに、俺はクロロ先生にどうにも逆らうことが出来なくて、黙ったまま鞄の中から本を取り出した。

「後は俺がしておくから、君はもう帰りなさい」

クロロ先生は格好いいし授業も分かりやすいから、中等部でもすごく人気がある。
俺もこの先生の世界史は面白くて好きなんだけど。
でも、今は。

「もう暗くなるし、クラピカも一緒に帰…」
「彼女、昨日は寝不足なんだ。もうしばらく寝かせておいてあげて」

すごく穏やかな表情なのに、俺は、クロロ先生にひどく怒られてるみたいな気分になって、はい、とだけ言って図書室を後にした。


ついさっき全力疾走で駆けてきた道を、やっぱり全力疾走で逆戻りしながら。

どうしてだろう。

どうして先生はクラピカが寝不足なこと知ってるんだろう。
担任の先生とならそんな話もするかな。
するか。
するよね。

俺は無理矢理自分を納得させて、今日の晩ごはんはなんだろう。
ズシはともかく、キルアは好き嫌い多いからなあ、なんて。
どうでもいいことを考えながら走り続けた。


end
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