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□request No.2
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おっきい目だなー。
とろりととろける蜂蜜の色。
昨日ウチのウザイ母親が、わざわざ俺のために取り寄せたとか何とか言って、無理矢理部屋に押し掛けて夜食代わりに置いてった、どこぞのセレブ御用達のスイーツなんかよりずっと美味しそう。
アメ玉みたいな瞳だけじゃなく。
体のどこもかしこも甘そうで。
朝食のパンケーキみたいにぺろりと食べちゃいたいなー、なんて。
「こら、ちゃんと聞いてるのか、キルア」
厳しい口調で名前を呼ぶ声まで甘くて、俺はこっそり舌舐めずりした。
初等科から大学までの一貫したエリート教育が売りの、堅苦しい学校の高等科に、砂糖菓子みたいなクラピカはこの春入学して来た。
一応、外部受験枠は設けられてるけど、その数がごく限られていることと、あまりにもレベルが高いことで、合格者が出ない年もあるし、大抵の枠は、学校の有力者の縁故関係で埋まってしまうらしい。
そんな中、何の縁故もなく純粋に試験の実力のみで入学してきたこの人は、俺のいる中等科でもちょっとした話題の人で。
「そうだよ、キルア。せっかくクラピカが教えてくれてるのに」
あ、ゴンの奴ずりー、自分だけいい子ぶっちゃって。
腹ん中で考えてることは俺と大差ないくせに。
そもそも、俺は学校中がこの人の噂で持ちきりになってた頃、すごい秀才なんだとか、めちゃくちゃ可愛いんだとか聞かされても、へーはーふーん、とか言って、適当に流してて、これっぽっちも興味なんて持ってなかった。
校内で噂になる程度の賢さとか外見なんてたかが知れてると思ってたし。
こんな俺でさえ名家の優秀な美少年なんて言われて、チヤホヤされたりするんだから、学校なんて本当に狭くてくだらない世界だと思ってた。
ところが、だよ。
ウィングの数学でゴンが赤点を取ったあの日。
膨大な課題を抱えて、ひーひー言ってるゴンを冷やかしてやろうと図書室を覗いた俺は。
たぶん人生始まって以来、一番間抜けな顔を晒したんじゃないかと思う。
ぽかん、て。
だって初めてこの人を見たときの衝撃と言ったら、もう。
大きな窓から差し込む太陽の光を受けて、直視出来ない程にきらきら輝く金色の塊みたいな人が、腰が砕けるほどの微笑みをゴンに向けていたんだから。
「ゴン、ほらここ。ここで引き算を間違えている。考え方は当っているのに単純なミスをしてはもったいないぞ」
あの図書室での出会いをきっかけに、俺達は、ちょくちょくクラピカに勉強を教えてもらうようになった。
今日だって放課後になるなりクラピカの教室に押し掛けて、週明けの学力テストを口実に数学を見てもらってる。
ゴンと友達で良かったと思うことは数えきれないほどあるけど、あの時ほどゴンの人懐っこさに感謝したことはないかな。
皆がこの人に声をかけたくて、でも出来なくて。
遠巻きに眺めてるだけだったのに。
名前、クラピカって言うんだよね?
クラピカってすごく頭がいいんでしょ。
俺、ここの所がどうしても分からないんだけど、どうしてこんな計算になるか分かる?って、その懐に飛び込んだんだから。
ホント、でかしたゴン。
「キルアはさっきからぼーっとしてどうしたのだ。ちょっとノートを見せてみろ」
俺のノートを取り上げる仕草だって完璧。
どの角度から見上げたってたまらなく綺麗でくらくらする。
「ん、ちゃんと出来ているな。私が教えなくてもキルアは大丈夫なんじゃないか?」
「そうだよ、キルアは数学得意なんだから、先に帰っててもいいよ」
わ、何だそれ。
そんな正々堂々とした抜け駆けありかよ。
「二人してそんな冷たいこと言うなよなー。俺だってちゃんと勉強したいのに」
大袈裟に瞳を潤ませて上目使いで見詰めると、クラピカは慌てたように、すまない、と謝って、それならキルアはもう少し先の問題をしてみたらいいと教科書を捲ってくれた。
現実離れした外見と堅い口調の不調和のせいで、近寄り難い空気を纏っているけれど。
この人は実は物凄く優しくて。
とくに小さき者にはとことん慈悲深く。
それを目一杯利用しようとしてる、俺は。
実は結構ワルイ子なんだよね。
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