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□request No.1
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パソコンの画面に向かっていた君が、小さく息を飲んだ。
きっと俺でなければ気付かないくらいに。

「コーヒーでも淹れようか?それとも紅茶の方がいい?」

素知らぬふうで声をかけると、君も全くの平静を装い、マウスをクリックして画面をシャットダウンした。

「いや…丁度一区切りついたし今日はもう寝る」


その日の君はセックスの最中もどこか上の空で、俺が一度達するとことりと眠りに落ちてしまって、俺はちっとも満たされなかった。


‥‥‥‥‥‥‥


翌日の朝、君はいつも通りに起きて、俺の作った朝食をきちんと食べて、きっかり決まった時間に、俺と、行ってらっしゃい愛してる早く帰って来て、のキスをしてから仕事へ出て行った。
もうキスなんて何百回もしてるのに、毎朝君は綺麗な眉をしかめて止めろと唸る。
そんな照れ屋なところも可愛くて好き。


さてと。

俺は君の気配がすっかり遠ざかったのを確認してからパソコンを立ち上げた。

だってちゃんと知っておかないと。

俺と君の平穏で神聖な生活を脅かすものがあるのなら、例えそれがどんなに些細なことであっても、早めに摘み取っておかなくちゃ。

目の前に広がったインペリアルブルーの画面に、君の民族衣装姿を重ねながら、俺はインターネットの履歴を一つ一つゆっくりと辿って行った。



‥‥‥‥‥‥‥



「お帰り」

いつも通りの時間に君は帰って来た。
正確にいえば、いつもよりほんの少し早いくらい。

だけどいつもみたいに、お帰りなさい君がいなくてさみしかったよ、のキスはさせてくれなくて、俺から逃げるようにバスルームへと向かおうとした。

今日は暑くて汗をかいた、なんて。

真夏の炎天下でも涼しげな美貌を崩さない君が。
本当に嘘をつくのが下手だね。

俺の手がぐるりと一周してしまうほど細い腕を掴んで強引に引き寄せると、きれいな声が俺を罵った。
そんな言葉、どこで覚えて来るの。
この間一緒に観たアクションホラー映画が悪かったかな。
でもごくたまに、金ばっかり注ぎ込んだ下らない娯楽映画も観たくなるんだよね。
主演の女優がちょっとだけ君に似てたし。

小さな体を壁に押し付けて、可愛くて騒がしい口を俺の唇で塞いでしまうと、ほっそりとした腕が、滅茶苦茶に俺の胸を叩いた。

単純な力勝負なら圧倒的に俺の方が有利。
でも力で君をねじ伏せるのは好きじゃない。

いつもなら、ね。

俺の腕の中で暴れるたびに華奢な肢体は体温を上げる。
その熱に炙られて、俺の大好きな甘く清らかな体臭が匂い立つ。

でも、今日はそこに。

酷く神経に障る邪魔な匂いが混ざってる。

「お祝いでも選んで来たの?」

俺を裏切らないで。
君を愛してる、頭がおかしくなりそうなほど。
君がいてくれるならほかに何にもいらない。
だから、蜘蛛もこの命も差し出した、のに。

「あの時の運転手。医者になったんだね」

耳元で、うんと優しく囁くと君の体がびくりと硬直した。

「な…」
「難病の画期的な治療法を確立したんだって?ちょっとした有名人になってるみたいだね。贈り物は香水?」

あのとき。
あの車の中でも。
この香水の匂いがしてたね。

「ちが…、たまたま、仕事の都合で香水を扱う店に、」
「俺はこの匂い、嫌いだよ」
「なら、すぐにシャワーを」

その必要はない。
シャワーなんかじゃ、この酷い匂いは消せないから。

君に染み付いていいのは、俺の匂いだけなんだよ。


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