sweets,Inc.

□shaved ice
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―夏休みの想い出が欲しいと言って、今日しか使えない入園チケットを持って玄関先まで来ているのだ。
二人共家庭の事情が複雑で、家族と一緒に遊びに出掛けることもままならないようだから。
特にキルアの家は厳しくて、ゴンと二人だけで遠出することは禁じられているのだが、私が監督者として付いて行くのなら、どうにか許してもらえるそうで。
ああ、私も今日ならば時間に余裕があるから。
それに、テーマパークでのことを宿題の作文に書きたいと言っているし。
え?はめられている?
何のことだ。
確かにゴンとキルアは、少しませた所はあるが、私を謀ったりはしない。
そんなことを言うなんて大人気ないぞ、クロロ。
医学部の?
ああレオリオのことか。
レオリオが行けばいいって?
彼にも頼んだようなのだが、やはり医学部の学生は忙しくて断られたそうなのだ。
だから今日の夕食の約束はキャンセルさせてもらえるか?
急ですまないな。
二人共出掛ける気満々でドアの前で待っているのだ。
週末はちゃんとお前のために空けておくから。
わ、キルア!勝手に入って来て。
こら、ゴンまで、そんなに引っ張るな。
では、出勤前の忙しい時間に悪かったな。
あっ…ちょっと待…。


クラピカからの電話の一部始終を、一気に再現して見せたクロロの話を整理したところによれば。
今朝早くからクラピカは、黒髪・銀髪コンビの策略にはまり、某有名テーマパークに出掛けて行ったらしい。

どうりで朝から機嫌が悪いわけだわ。
まったくとんだとばっちりね。

「あのクソガキ共。俺が手出し出来ないように、当日の朝、クラピカの自宅に押し掛けるとは。今日しか使えないチケットって、そりゃ日付指定パスポートじゃねーか。クラピカの予定を調べ上げた上での計画的犯行…しかも彼女の優しさと鈍さに漬け込んで、あんな俗っぽい場所に連れ出すなんて。ただでさえクラピカは炎天下と人混みが苦手なのに、もしものことがあったらどうしてくれよう」


どんな困難な局面も不敵な微笑み一つでやり過ごして来た我らが辣腕の社長が、ほんの12かそこいらの子供からのメール一つに心乱されて、携帯を握り潰さんばかりに憤っているなんて。

ああ、情けない。

これじゃあ仕事にならないじゃないの。
ここは一つ、クロロの秘書としての本領を発揮せねば。


「社長?ちょっと落ち着いて下さい」

決してマチみたいに叱り飛ばしたりせず、なるべく優しい声で。

「夕食の件は残念でしたけど、クラピカの性格からして、こんな格好のまま一日中遊び歩くなんてことありえないと思います。きっとこの写真を撮られた直後に外してますわ」

これはかなりの確率で当たってると思う。

「…それに」

ちょっともったいぶって間を置くと、怒りに我を忘れたクロロがふと私に視線を寄越した。
こうなればこっちのもの。
伊達に長年この役を任されてるわけじゃないのよ。

「それに?」
「一見ゴンとキルアの方を優先したように見えますが、生真面目過ぎるほどに誠実なクラピカですもの。当日の朝、約束のキャンセルを乞うて来るなんて、よっぽど社長のことを信頼している証拠だと思います」

クロロの瞳の奥がキラリと光る。
よし、もうあと一押し。

「しかも、わざわざ週末は社長のために空けておくなんて言う辺り…」
「言う辺り?」
「週末二人きりの時、社長のためだけに猫耳をつけてくれたりして」

…これはないわね。
ないない。
絶対ありえない。
さすがのクロロもこんな子供騙しには乗ってこないか…と思いきや、なによ、そのやけに爛々とした目は。
必死で冷静な表情を保ってるつもりかも知れないけど、頭の中で物凄く如何わしいこと考えちゃってるのが丸分かりなんですけど。

あー、やだやだ。
昔はもっと格好いい人だったのに。
まあ、いいわ。
とにかく私はクロロが社長としての仕事をきちんとこなしてくれればそれでいいの。

「というわけで社長。週末きっちりお休みを取りたいのなら、やるべき仕事はさっさと片付けてしまいましょう」


結果的に言えば、その日の仕事はいつもとは比べ物にならないほどにはかどって、この分なら私も今週末はのんびり出来そうね。
懸命にノルマ以上の働きをしたクロロが、クラピカの猫耳姿を生で拝めるかどうか…は、私の知るところではないけど。


end
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