sweets,Inc.
□creamy day:side Q
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いつもより言葉少なく俺の家に辿り着いて、リビングの一角に最近迎え入れた、ゆったりとした一人掛けソファにクラピカを座らせた。
俺と一緒に動こうとする彼女をたしなめて、キッチンで飲み物を用意する。
クラピカの初めては何もかも独り占めしたくて、パーティーではアルコールも飲ませなかった。
人生最初のアルコールにほんのり頬を染めるクラピカを、俺以外の奴に晒すなんてそんなもったいないこと。
久しぶりに顔を合わせたシャルと話し込んでいたら危うくフィンクス達に先を越されそうになって心底焦ったのだ。
だから今日、二人きりになれたら、そう決めた。
他の誰かに先回りされてしまう前に、俺が。
でも完全に酔いが回ってしまうのももったいないから。
俺はスパークリングワインをベースにしたごく軽めのカクテルを作った。
「随分綺麗な酒だな」
背の高いグラスを覗き込んでクラピカが、ほ、とため息を溢す。
淡いピンクの液体の中で苺やラズベリーがゆらゆらと揺れている。
その様をひとしきり楽しんでから静かに乾杯した。
でもやっぱりクラピカはアルコールに対する躊躇いがあるみたいで。
「すごく軽く作ったから安心して飲んでいいよ。万が一具合が悪くなっても、俺が責任持って介抱する」
俺が出せる一番穏やかな声で後押しすると、長いまつ毛がゆっくり伏せられてグラスが傾いた。
「どう?」
白い喉元が震えるように上下する様子をうっとりと眺めながら訊ねると、蜂蜜色の瞳がとろりと俺を映した。
「ん、美味しい」
いつもと同じ涼しげな声なのに、心なしか熱を孕んだように聞こえるのは気のせいか。
その熱に押し流されてしまう前にするべきことをしなくては。
ソファに座ってさえぴんとした姿勢を崩さないクラピカの前にかしずく様にひざまずいて、秘かに忍ばせていた小さな包みを差し出した。
いまだグラスの中を興味深く覗き込んでいたクラピカが俺に視線を移して、ほんの少し首をかしげた。
柔らかな金の髪がその肩に当たって音もなく跳ねる。
「誕生日おめでとう」
今日何度目かの祝いの言葉。
白い右手に握られていたグラスをするりと取り上げて、かわりに銀色のリボンがかけられた濃紺の小箱を手渡した。
「開けてみて」
そう言うとクラピカが弾かれたように身を引いて首を横に振った。
「あんなに盛大に誕生日を祝ってもらった上に、こんなプレゼントまで。受け取れない」
そう言うと思った。
「本当は今日一日二人きりで過ごしたかったんだ。でも君のこと祝いたいのは俺だけじゃなくて、独り占めする訳にはいかなくて、すごくがまんしたんだよ。だから、ね。俺一人に君のこと祝わせて。俺のために受け取って」
クラピカのまるい膝頭に左手を添えて許しを乞うように上目遣いで見上げると、何かを言おうとしていた薔薇色の唇が言葉を失ってきゅっと引き結ばれた。
「ね、俺のために」
固まってしまった華奢な手を取って銀色のリボンへと導く。
意地っ張りだけど人一倍情に厚い君は、俺のために、この言葉にすごく弱い。
それを今利用する俺はずるい男なのかな。
君の指がぎこちなく、躊躇いがちに動いてリボンを摘まみ。
一旦止まる。
「…すまない」
「こういうときは、すまないよりもありがとうって言われたいな」
笑いながら見上げると、君は俺の視線から逃げるように顔を背けて。
いつもより少し早口で、ありがとう、と言った。
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